通勤災害の寄り道はどこまで?認められないケースと例外を解説
結論からお伝えします。通勤途中の事故によるケガは、通勤災害として労災保険の対象になります。出勤だけでなく帰り道も含まれ、自転車通勤でも構いません。ただし、通勤経路を外れたり通勤と関係のない行動をしたりする「寄り道」(逸脱・中断)をすると、その間だけでなくその後の帰り道も原則として対象外になります。例外は、日用品の購入や通院、家族の介護といった日常生活上必要な行為のための最小限の寄り道で、この場合は元の経路に戻った後は再び通勤災害の対象になります(保育園への送迎は、そもそも寄り道ではなく通勤経路の一部として扱われます)。この記事では、どこまでの寄り道なら認められるのかをケース別に整理し、業務災害との違いと申請の進め方まで解説します。
・通勤災害には「就業に関する移動」「対象となる移動」「合理的な経路・方法」の3要件がある
・寄り道(逸脱・中断)をするとその間とその後は原則対象外。ただし、トイレや経路上の店での短時間の買い物などの「ささいな行為」は寄り道に当たらない
・日用品の購入・通院・選挙・介護・職業訓練のための最小限の寄り道なら、経路に戻った後は再び対象になる(寄り道の最中は対象外)
通勤災害の3つの要件
- 就業に関する移動であること——仕事に行くため・帰るための移動であること
- 対象となる移動であること——①住居と就業場所の往復、②複数の勤務先間の移動、③単身赴任先と帰省先の間の移動
- 合理的な経路・方法であること——通常使う経路・手段であること。電車・車・自転車・徒歩いずれでも構いません。渋滞回避の迂回など合理的な理由のある経路変更もOKです
帰り道(退勤途中)のケガ・事故も通勤災害になります
「行きは仕事のためだけど、帰りは違うのでは?」と心配される方がいますが、通勤災害の「通勤」には出勤だけでなく、仕事を終えて住居へ帰る移動(帰り道)も含まれます。帰宅途中に駅の階段で転倒した、自転車で帰る途中に車と接触した——いずれも、合理的な経路・方法であれば通勤災害として労災保険の対象になります。
帰り道で問題になりやすいのは、スーパーでの買い物や通院、飲み会など「寄り道」をした場合です。これは次の「逸脱・中断」のルールで判断が分かれますので、続けてご覧ください。
寄り道のルール——「ささいな行為」「必要な寄り道」「それ以外」の3段階
通勤経路を外れることを「逸脱」、通勤と関係のない行動をすることを「中断」といい、逸脱・中断をした間と、その後の移動は、原則として通勤になりません(労災保険法7条3項)。ただし、寄り道には3つの段階があり、扱いが違います。
| 段階 | 具体例 | 扱い |
|---|---|---|
| ① ささいな行為 | 経路近くの公衆トイレの利用、経路上の店でのタバコ・雑誌・飲み物の短時間の購入、公園での短時間の休息 | そもそも逸脱・中断に当たらない。その間も通勤として扱われる |
| ② 日常生活上必要な行為のための最小限の寄り道 | スーパーでの夕食の買い物、病院・歯科の受診、選挙の投票、要介護の家族の介護、職業訓練や学校 | 寄り道の最中は対象外。元の経路に戻った後は再び通勤として扱われる |
| ③ それ以外の寄り道 | 飲み会、映画、ジム、友人宅への訪問、長時間の娯楽 | その間も、その後の帰り道も対象外 |
②の「日常生活上必要な行為」は、労災保険法施行規則8条で次の5つに限定されています。
- 日用品の購入その他これに準ずる行為
- 職業訓練、学校教育その他これらに準ずる教育訓練で、職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院または診療所で診察・治療を受けることその他これに準ずる行為
- 要介護状態にある配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹・配偶者の父母の介護(継続的または反復して行われるもの)
なお、保育園や託児所に子どもを預けてから出勤する場合は、そもそも「寄り道」ではなく、就業のためにとらざるを得ない合理的な経路として扱われます(通達でも、共稼ぎの労働者が託児所などに子どもを預けるためにとる経路は合理的な経路とされています)。
ケース別判定表
| ケース | 判定の目安 |
|---|---|
| 保育園に子どもを送ってから出勤中の事故 | ○ 対象になり得る(託児所等を経由する経路は合理的経路) |
| 経路上のコンビニで飲み物を買って出た直後の事故 | ○ 対象になり得る(短時間の購入は「ささいな行為」) |
| コンビニやスーパーの店内で転倒した | △ 店内の事故は中断中として認められないことがある(滞在時間や目的で判断が分かれる) |
| 帰りにスーパーで夕食の買い物をして、経路に戻った後の事故 | ○ 対象になり得る(経路復帰後) |
| スーパーの店内・駐車場での事故(買い物中) | × 中断中のため原則対象外 |
| 帰りに病院・整骨院に寄り、経路に戻った後の事故 | ○ 対象になり得る(治療・受診は例外行為) |
| 同僚と飲みに行った帰りの事故 | × 原則対象外(飲酒は日常生活上必要な行為に当たらず、店を出た後も通勤に戻らない) |
| 帰りにジムや映画に寄った後の事故 | × 原則対象外(③の寄り道。その後の帰り道も対象外) |
| 要介護の親の家に寄って介護をしてから帰る途中の事故 | ○ 対象になり得る(継続的・反復的な介護は例外行為。経路復帰後) |
| 取引先へ直行・直帰する途中の事故 | ○ 対象になり得る(業務災害となる場合も) |
| 会社に無断の自転車通勤中の事故 | ○ 合理的な方法であれば対象になり得る(届出の有無は決め手ではない) |
| 単身赴任先から週末に帰省する途中の事故 | ○ 対象になり得る(労災保険法7条2項3号の住居間の移動。省令の要件あり) |
※実際の判定は距離・時間・目的など個別事情によります。「×かも」と思っても、判断が分かれるグレーゾーンは多いので自己判断で諦めないでください。
◆ 反対方向へ約140mの買い物は「逸脱」——夕食の材料を買うため、帰り道の交差点から自宅と反対方向に約140m先の商店へ向かい、その途中(交差点から約40mの地点)で自動車に追突されて亡くなった事案で、裁判所は、商店へ向かう行為は合理的経路からの「逸脱」にあたるとして、通勤災害と認めませんでした(札幌高裁平成元年5月8日判決)。夕食の買い物自体は「日常生活上必要な行為」ですが、保護されるのは元の経路に戻った後だけで、寄り道の「行き」や「途中」の事故は対象外になります。
◆ 飲酒は「中断」——店を出た後の帰り道も対象外——仕事帰りに飲酒し、その後帰宅する途中で土手道から転落して負傷した事案で、裁判所は、飲酒は通勤と関係のない行為(中断)であり「通勤」とはいえないとして、労災の不支給処分を適法と判断しました(東京地裁平成14年8月21日判決)。飲酒は例外となる「日常生活上必要な行為」に入らないため、お店を出て元の帰り道に戻った後の事故でも、原則として労災保険は使えません。
◆ 会社が用意した手段以外の出勤でも認められた例——山あいの発電所に勤務する労働者が、通勤用のバスに乗り遅れ、自己所有の原動機付自転車で出勤する途中に被災した事案で、最高裁は、他に合理的な交通手段がないやむを得ない代替方法だったなどの事情のもとでは業務上の事由による災害(労災)にあたると認めました(最高裁昭和54年12月7日判決)。通勤災害の制度ができる前の事案のため「業務上」の災害として扱われていますが、会社の指定外の手段であっても、やむを得ない合理的な代替手段であれば保護されるという考え方を示した判例で、会社の許可や届出の有無だけで労災が否定されるわけではない、という発想につながります。
◆ 単身赴任の週末帰省も「通勤」——単身赴任先の住居と家族の住む自宅との間の移動は、現在は労災保険法7条2項3号で、出勤・退勤に先行または後続する「住居間の移動」として明文で通勤に含まれています(配偶者と別居することがやむを得ない事情があるなど、省令で定める要件があります)。法律に明記される前にも、単身赴任者の自宅と赴任先の寮との間の移動(週末帰宅型通勤)の途中で発生した事故について、就業に関する移動にあたるとして通勤災害に該当すると判断した裁判例があります(東京地裁平成11年12月27日判決)。
通勤中・業務中の交通事故——労災と自賠責・任意保険の使い分け
相手のいる交通事故の場合、労災保険と相手方の自賠責・任意保険の両方が関係します(同じ損害の二重取りはできません)。どちらを先に使うかで手取りが変わることがあり、たとえば次の視点があります。
- 労災の特別支給金(休業特別支給金など)は損害の填補とみなされないため、労災を使うことで実質的な受取総額が増えることがある
- ご自身の過失が大きい事故では、過失相殺のない労災保険を軸にする方が有利なことが多い
- 治療費の打ち切り圧力が強い任意保険会社への対抗として、労災での治療継続が有効なことがある
この使い分けは交通事故と労災の両方の実務知識が必要な領域で、交通事故案件を多く扱ってきた当事務所の得意分野です。
通勤災害と業務災害の違い——手続きと補償で変わる点
| 通勤災害 | 業務災害 | |
|---|---|---|
| 治療の請求書 | 様式第16号の3(指定病院)/第16号の5(立替払い) | 様式第5号/第7号 |
| 休業の請求書 | 様式第16号の6 | 様式第8号 |
| 休業最初の3日間 | 会社の補償義務なし | 会社が平均賃金の6割を補償(労働基準法76条) |
| 治療の自己負担 | 初回に一部負担金200円(休業給付から差し引かれる。交通事故など第三者の行為による場合は免除) | なし |
| 療養中の解雇制限 | 労働基準法19条の適用なし(ただし、通勤災害の療養を理由とする解雇は、解雇権の濫用として無効になることがあります。労働契約法16条) | 休業期間とその後30日間は原則解雇できない |
| 会社への損害賠償 | 原則として問えない(会社が手配した送迎などを除く) | 安全配慮義務違反があれば可能 |
※給付の内容そのもの(治療費、休業の8割、後遺障害、遺族への給付)は通勤災害と業務災害で変わりません。様式の書き方は「労災の様式の書き方」をご覧ください。
申請の進め方——会社が手続きをしなくても自分で請求できます
- 受診時に「通勤中の事故」と伝える——健康保険は使えません。労災指定病院なら様式第16号の3を病院に提出します。
- 通勤経路と事故状況を記録する——いつもの経路・手段、事故の場所と時刻、寄り道の有無と目的、経路に戻っていたか。請求書にはこれらを書く欄があり、会社は知り得た範囲で証明します。
- 会社が「通勤災害ではない」と言っても請求できる——請求するのは本人で、認定するのは労働基準監督署です。会社が証明を渋る場合の出し方は労災申請の記事で解説しています。
- 相手のいる交通事故なら「第三者行為災害届」も提出する——相手方の保険との調整に必要です。
※請求権の時効は、治療費・休業給付が2年、後遺障害・遺族給付が5年です(労災保険法42条1項)。「通勤災害かどうか微妙だから」と申請を見送ると、後から取り戻せません。
まとめ
通勤災害には「就業に関する移動」「対象となる移動」「合理的な経路・方法」の3要件があり、出勤だけでなく帰り道の事故も対象です。寄り道(逸脱・中断)をするとその間とその後は原則として対象外になりますが、トイレや短時間の買い物などのささいな行為は寄り道に当たらず、日用品の購入・通院・選挙・介護・職業訓練のための最小限の寄り道なら経路に戻った後は再び対象になります。業務災害と違って最初の3日間の会社の補償や解雇制限はありませんが、給付の内容は同じで、会社が動かなくても本人が請求できます。
寄り道の扱いなど判断に迷うケースは、初回無料のご相談でご確認ください。
よくある質問
Q.通勤災害の申請は会社がしてくれるものですか?
A.請求するのは本人です。会社は請求書の証明欄に通勤経路などを知り得た範囲で記入しますが、会社が「通勤災害ではない」と考えていても、本人が労働基準監督署に請求でき、認定するのは労基署です。
Q.帰りにコンビニに寄った場合、通勤災害になりますか?
A.経路上のコンビニで飲み物などを短時間で買う行為は「ささいな行為」として寄り道に当たらず、店を出た後の事故は通勤災害になり得ます。日用品の買い物でも、店内での事故は中断中として認められないことがあり、滞在時間や目的で判断が分かれます。
Q.仕事帰りにスーパーで買い物をした後の事故も通勤災害になりますか?
A.買い物は日常生活上必要な行為にあたりますが、店内・駐車場での事故は中断中のため原則対象外です。買い物を終えて合理的な経路に戻った後の事故であれば、通勤災害として対象になり得ます。
Q.同僚と飲みに行った帰りの事故はどうなりますか?
A.飲酒は通勤と関係のない行為(中断)にあたるため、原則として通勤災害とは認められません。
事故状況をお聞かせいただければ、最も有利な進め方をご提案します。初回相談は無料です。
※お電話・メール・LINEはご相談の予約受付です。利益相反や業務の状況により、ご相談をお受けできない場合があります。