会社から「労災を使わないでほしい」と言われたら——労災隠しへの正しい対処法
仕事中にケガをしたのに、会社から「健康保険で治療しておいて」「大ごとにしたくないから労災は使わないでほしい」と言われた——。当事務所への労災のご相談の中でも、よくお聞きするお話です。
結論から言えば、このお願いに応じるべきではありません。応じてしまうと、治療費・休業補償・後遺障害の補償など、本来受け取れるはずのものを受け取れなくなるおそれがあります。このコラムでは、その理由と、労働者側が取るべき行動を解説します。
そもそも「労災隠し」は犯罪です
労働者が業務中の事故で休業4日以上のケガをした場合、会社は労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を提出する義務があります。これを提出しなかったり、虚偽の内容で提出したりすることが、いわゆる労災隠しです。労働安全衛生法違反として50万円以下の罰金が科される犯罪であり、厚生労働省・労働基準監督署も「労災かくしは犯罪です」として摘発を続けています。
つまり、「労災を使わないでほしい」というお願いは、労働者に配慮した提案ではなく、会社が自らの法律違反を隠すための依頼である可能性が高いのです。
健康保険で治療を受けてはいけない理由
業務中のケガの治療に健康保険を使うことには、次の問題があります。
- そもそも使えません——業務上のケガ・病気は健康保険の対象外です(健康保険法上、業務災害は給付対象から除かれています)。後で発覚すると、健康保険組合から給付分の返還を求められることがあります。
- 自己負担が発生します——労災保険なら治療費は原則全額給付(自己負担なし)ですが、健康保険では3割の自己負担が生じます。
- 休業補償を受けられません——労災保険の休業(補償)給付は、労災として扱われて初めて受給できます。
- 後遺障害の補償につながりません——症状が残った場合の障害(補償)給付も、労災認定が前提です。
- 証拠が残りません——「仕事中の事故だった」という記録が公的に残らないため、後から会社に損害賠償請求をする際の立証も難しくなります。
労働者側が取るべき5つの行動
1. 病院で「仕事中のケガ」であることを必ず伝える
受診時に「業務中の事故」であることを伝え、労災保険での受診を申し出てください。診療録(カルテ)に事故状況が記録されることは、後々まで重要な証拠になります。
2. 事故の証拠を残す
事故現場・機械・作業環境の写真、目撃した同僚の氏名・連絡先、会社とのやり取り(LINEやメールはスクリーンショット)を保存してください。「労災を使わないで」と言われた場面の録音やメッセージも、そのまま残しておきましょう。
3. 労災申請は自分でできることを知っておく
労災保険の請求書には会社の証明欄がありますが、会社が証明を拒否しても申請は可能です。その場合は、会社が証明に応じない事情を書き添えて労働基準監督署に提出すれば、監督署が調査のうえ判断します。会社の協力は労災申請の必須条件ではありません。
4. 「労災を使わない代わりの補償」の口約束を信じない
「治療費は会社が持つから」「給料は保障するから」という口約束は、治療が長引いたり後遺症が残ったりした途端に反故にされるケースが後を絶ちません。仮に一部支払われたとしても、慰謝料や逸失利益まで含めた適正な賠償額には遠く及ばないのが通常です。
5. 早めに弁護士・労働基準監督署に相談する
会社との関係を心配して一人で抱え込む方が多いのですが、時間が経つほど証拠は失われ、時効(労災保険給付は2年または5年、損害賠償請求は原則5年)も進行します。労災隠しをするような会社は、安全配慮義務違反の損害賠償請求でも争ってくる可能性が高いため、早期に弁護士へ相談されることをおすすめします。
「会社に迷惑がかかるのでは」と心配な方へ
労災保険は国の制度であり、給付は国から支払われます。労災を申請したからといって、直ちに会社が保険料負担などで大きな不利益を受けるわけではありません。むしろ、労災隠しに加担してしまうと、あなた自身が適正な補償を受けられなくなります。労災申請は労働者の正当な権利です。ためらう必要はありません。
労災申請の進め方から会社への損害賠償請求まで、弁護士が一貫してサポートします。初回相談は無料です。