会社から示談を持ちかけられたら——サインする前に確認すべき5つのこと
「このたびは申し訳なかった。この金額で示談してほしい」——労災事故の後、会社から示談書や見舞金の提示を受けることがあります。誠意ある対応に見えるかもしれません。しかし、示談書に一度サインをすると、あとから「金額が少なすぎた」と気づいても、原則としてやり直すことはできません。サインの前に、このコラムの5つのポイントだけは必ず確認してください。
なぜ会社の提示額は低くなりがちなのか
会社側に悪意がなくても、提示額は低くなる構造があります。会社の提示は「見舞金」の発想で計算されることが多く、法的な損害賠償の項目——慰謝料(入通院・後遺障害)、逸失利益、休業損害の残り分など——が含まれていないことがほとんどだからです。当事務所が扱う事案でも、当初提示額が裁判基準で計算した適正額の数分の1にとどまるケースは珍しくありません。
サインする前に確認すべき5つのこと
① 慰謝料が含まれているか
提示額の内訳を確認してください。「見舞金」「解決金」とだけ書かれていて内訳が不明な場合、慰謝料が正当に計算されていない可能性が高いといえます。労災保険からは慰謝料が出ない以上、会社との示談は慰謝料を受け取る唯一の機会です。
② 逸失利益(将来の減収分)が含まれているか
後遺障害が残った場合、将来にわたる労働能力の低下分(逸失利益)は賠償額の中で最も大きな項目になることが多く、等級・年齢・収入によっては数千万円になります。これが抜けた示談は絶対に避けるべきです。
③ 後遺障害の等級が確定する前ではないか
等級が確定しなければ、慰謝料も逸失利益も正確に計算できません。症状固定・等級認定の前に示談を求められたら、それだけで要注意です。「等級が出る前に済ませたい」という会社側の意図が隠れていることがあります。
④ 「清算条項」の範囲が広すぎないか
示談書にはほぼ必ず「本件に関し、その余の債権債務がないことを相互に確認する」という清算条項が入ります。この一文により、示談後の追加請求は原則できなくなります。症状が悪化した場合の再協議条項があるか、放棄する権利の範囲が広すぎないかは、専門家のチェックが必要な部分です。
⑤ 労災保険給付との関係が整理されているか
示談金と労災保険給付の関係(どこまでが労災給付と別枠の支払いなのか)が曖昧だと、後日、労災年金の支給調整などで想定外の不利益を受けることがあります。示談の内容によっては将来の労災給付に影響が及ぶ場合があるため、必ず事前に確認してください。
示談金の「相場」はどう考える?
労災の示談金に一律の相場表はありませんが、適正額は「裁判基準で計算した損害総額(治療費・休業損害・慰謝料・逸失利益)−労災保険から受給済み・受給予定の額(特別支給金を除く)±過失相殺」で算定します。この計算は等級・収入・年齢で大きく変わるため、ご自身のケースの適正額を知るには個別の診断が必要です。当事務所では無料相談で概算をお示ししています。
示談書をお持ちいただければ(写真・PDFでも結構です)、提示額が適正かどうかを弁護士が診断します。