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弁護士コラム

労災の慰謝料はいくら?——労災保険から慰謝料が出ない理由と会社への請求相場

労災の慰謝料相場のイメージ

「労災でケガをしたら、慰謝料はいくらもらえるのか」——当事務所に最も多く寄せられるご質問です。実は、この質問には多くの方が驚く答えがあります。労災保険からは、慰謝料は1円も支払われません。慰謝料を受け取るには、労災保険とは別に、会社(場合によっては元請会社や第三者)へ損害賠償請求をする必要があるのです。

このコラムでは、労災事故の慰謝料の種類と裁判基準の相場、そして会社に請求できる条件を解説します。

労災保険からは慰謝料が支払われない

労災保険は、治療費(療養補償給付)や休業中の収入の一部(休業補償給付)など、財産的な損害の最低限の補償を目的とした制度です。事故によって受けた精神的苦痛への賠償である「慰謝料」は、労災保険の給付項目にそもそも含まれていません。

つまり、労災保険の手続きだけで終わらせてしまうと、慰謝料を1円も受け取らないまま事件が終わってしまいます。特に入院・手術をした方、後遺障害が残った方、ご家族を亡くされた方にとって、この差は数百万円〜数千万円にのぼります。

なお、労災保険から受け取った給付(本体)は、会社への賠償額の計算で対応する損害から差し引かれますが、休業特別支給金・障害特別支給金などの特別支給金は福祉的な給付のため、賠償額から差し引かれません。受け取った分だけ手元に残るお金です。

労災事故で請求できる慰謝料は3種類

① 入通院慰謝料(傷害慰謝料)

ケガの治療のために入院・通院を余儀なくされたことに対する慰謝料です。入通院の期間に応じて金額が決まり、裁判基準(弁護士が交渉・裁判で用いる基準)の目安は次のとおりです。

治療期間通院のみの場合入院1か月+通院の場合
1か月約28万円約53万円(入院のみ)
3か月約73万円約115万円
6か月約116万円約149万円

※いわゆる「赤い本」(民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準)の基準を目安として記載。実際の金額は傷害の内容・程度により増減し、入院期間と通院期間の組み合わせによっても異なります。

② 後遺障害慰謝料

治療をしても後遺症が残り、後遺障害等級(1級〜14級)が認定された場合の慰謝料です。等級によって金額が大きく変わります

等級裁判基準の相場等級裁判基準の相場
第1級2,800万円第8級830万円
第2級2,370万円第9級690万円
第3級1,990万円第10級550万円
第4級1,670万円第11級420万円
第5級1,400万円第12級290万円
第6級1,180万円第13級180万円
第7級1,000万円第14級110万円

この表からわかるとおり、等級が1つ違うだけで慰謝料は数十万〜数百万円変わります。適正な等級認定を受けることが極めて重要です。詳しくは「後遺障害等級1級〜14級の早見表」をご覧ください。

③ 死亡慰謝料

労働者がお亡くなりになった場合の、ご本人とご遺族の精神的苦痛に対する慰謝料です。

亡くなられた方の立場裁判基準の相場
一家の支柱(家計を主に支えていた方)2,800万円程度
母親・配偶者2,500万円程度
その他(独身の方・お子様など)2,000万〜2,500万円程度

慰謝料を会社に請求できる条件

慰謝料を請求できるのは、会社に安全配慮義務違反(労働契約法5条)や不法行為責任が認められる場合です。たとえば、機械に安全装置がなかった、墜落防止措置がなかった、安全教育が不十分だった、無理な長時間労働をさせていた——このような事情があれば、会社は損害賠償責任を負います。典型例は「安全配慮義務違反の典型例10選」で詳しく解説しています。

ご自身に一定の不注意(過失)があっても請求は可能です。過失の分だけ減額されることはありますが(過失相殺)、労災事故では会社側の管理責任が重視される傾向にあります(詳しくは「過失相殺の考え方」へ)。なお、実務の計算では、損害総額からまず過失相殺を行い、その残額から労災保険給付を差し引く順序が基本です。労災給付との細かな調整のルールは別のコラムで改めて解説します。

慰謝料の請求を支える裁判例
◆ 元請会社にも請求できる場合がある——下請会社の労働者が、元請会社の作業場で、元請の管理する設備・工具を使い、事実上元請の指揮・監督を受けて働き、作業内容も元請の従業員とほとんど同じだった事案で、最高裁は、元請会社は信義則上、その労働者に対して安全配慮義務を負うと判断しました(最高裁平成3年4月11日判決)。建設現場や構内下請で働く方は、直接の雇い主だけでなく元請への請求も視野に入ります。

◆ 特別支給金は賠償額から差し引かれない——最高裁は、労災保険の特別支給金について「被災労働者の損害額から控除することができない」と明確に判断しています(最高裁平成8年2月23日判決)。「労災からもらった分は全部差し引く」という会社側の計算は誤りです。

◆ 事故自体の責任が否定されても、慰謝料だけ認められた例——入社2か月で過酷な工事現場に配属され、極めて長時間の時間外労働と上司のパワハラを受けていた労働者が、飲酒後の交通事故で亡くなった事案で、裁判所は、事故そのものへの会社の責任は否定しつつ、違法な長時間労働とパワハラは安全配慮義務違反にあたるとして、生前の肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料150万円を認めました(津地裁平成21年2月19日判決)。違法な働かせ方そのものが、慰謝料の対象になり得るのです。

慰謝料で損をしないための3つのポイント

  • 裁判基準で計算する——会社や保険会社の提示は、裁判基準より大幅に低いことがほとんどです。
  • 等級認定を先に固める——後遺障害慰謝料と逸失利益は等級で決まります。等級確定前の示談は禁物です。
  • 示談書にサインする前に相談する——一度示談すると、原則としてやり直しはできません。詳しくは「示談書にサインする前に確認すべき5つのこと」へ。
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