労災の慰謝料相場はいくら?入通院・後遺障害・死亡の金額一覧
結論からお伝えします。労災保険からは、慰謝料は1円も支払われません。慰謝料を受け取るには、労災保険とは別に、会社(場合によっては元請会社や第三者)へ損害賠償請求をする必要があり、会社に安全配慮義務違反などの落ち度があることが条件です。金額の目安は裁判基準で、入通院慰謝料は通院3か月で約73万円、入院1か月+通院3か月で約115万円、後遺障害慰謝料は14級110万円から1級2,800万円、死亡慰謝料は2,000万〜2,800万円です。この記事では、3種類の慰謝料の相場表、骨折などケガ別の考え方、会社に請求できる条件、税金、請求の進め方と時効まで解説します。
・労災保険からは慰謝料が1円も支払われない(給付は治療費・休業・障害・遺族などの7種類のみ)
・慰謝料は入通院・後遺障害・死亡の3種類で、裁判基準の相場がある。会社の提示額はこれより低いことがほとんど
・会社に安全配慮義務違反があれば労災保険とは別に請求でき、受け取った慰謝料に税金はかからない
労災保険からは慰謝料が支払われない
労災保険は、治療費(療養補償給付)や休業中の収入の一部(休業補償給付)など、財産的な損害の最低限の補償を目的とした制度です。労災保険法が定める業務災害の給付は、療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付・遺族補償給付・葬祭料・傷病補償年金・介護補償給付の7種類で(労災保険法12条の8)、事故によって受けた精神的苦痛への賠償である「慰謝料」は、そもそも給付項目に含まれていません。慰謝料は民法上の損害賠償(民法710条・711条)として、責任のある相手に請求するものです。
つまり、労災保険の手続きだけで終わらせてしまうと、慰謝料を1円も受け取らないまま事件が終わってしまいます。特に入院・手術をした方、後遺障害が残った方、ご家族を亡くされた方にとって、この差は数百万円〜数千万円にのぼります。
なお、労災保険から受け取った給付(本体)は、会社への賠償額の計算で対応する損害から差し引かれますが、休業特別支給金・障害特別支給金などの特別支給金は福祉的な給付のため、賠償額から差し引かれません。受け取った分だけ手元に残るお金です。
| 損害の項目 | 労災保険から | 会社に請求するもの |
|---|---|---|
| 治療費 | 療養(補償)給付で原則全額 | 労災で賄われない部分のみ |
| 休業中の収入 | 休業(補償)給付6割+特別支給金2割 | 給付で足りない休業損害(特別支給金は差し引かれない) |
| 後遺障害による減収(逸失利益) | 障害(補償)給付(年金または一時金) | 給付を差し引いた残りの逸失利益 |
| 慰謝料(入通院・後遺障害・死亡) | なし | 全額 |
※労災保険の給付と会社への賠償額の調整の詳しいルールは「労災保険と損害賠償は両方もらえる?」をご覧ください。
労災事故で請求できる慰謝料は3種類
① 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
ケガの治療のために入院・通院を余儀なくされたことに対する慰謝料です。入通院の期間に応じて金額が決まり、裁判基準(弁護士が交渉・裁判で用いる基準)の目安は次のとおりです。
| 治療の内容 | 裁判基準の目安 |
|---|---|
| 通院のみ1か月 | 約28万円 |
| 通院のみ3か月 | 約73万円 |
| 通院のみ6か月 | 約116万円 |
| 入院1か月のみ | 約53万円 |
| 入院1か月+通院2か月 | 約98万円 |
| 入院1か月+通院3か月 | 約115万円 |
| 入院1か月+通院6か月 | 約149万円 |
| 入院2か月+通院6か月 | 約181万円 |
※いわゆる「赤い本」(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)の別表Ⅰを目安として記載。骨折や内臓損傷などの重傷の場合はこの表を使い、むちうちなど他覚所見のない軽傷の場合は、これより低い別表Ⅱが使われます。実際の金額は傷害の内容・程度により増減し、通院の頻度が少ない場合は実際の通院日数をもとに期間が調整されることがあります。
② 後遺障害慰謝料
治療をしても後遺症が残り、後遺障害等級(1級〜14級)が認定された場合の慰謝料です。等級によって金額が大きく変わります。
| 等級 | 裁判基準の相場 | 等級 | 裁判基準の相場 |
|---|---|---|---|
| 第1級 | 2,800万円 | 第8級 | 830万円 |
| 第2級 | 2,370万円 | 第9級 | 690万円 |
| 第3級 | 1,990万円 | 第10級 | 550万円 |
| 第4級 | 1,670万円 | 第11級 | 420万円 |
| 第5級 | 1,400万円 | 第12級 | 290万円 |
| 第6級 | 1,180万円 | 第13級 | 180万円 |
| 第7級 | 1,000万円 | 第14級 | 110万円 |
この表からわかるとおり、等級が1つ違うだけで慰謝料は数十万〜数百万円変わります。適正な等級認定を受けることが極めて重要です。詳しくは「後遺障害等級1級〜14級の早見表」をご覧ください。
※この基準額はご本人の慰謝料です。後遺障害が残った場合は、症状固定までの入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の両方を請求できます。たとえば骨折で入院1か月+通院3か月ののち、関節の動きに制限が残って12級が認定された場合、入通院慰謝料約115万円+後遺障害慰謝料290万円=約405万円が慰謝料の目安です(休業損害・逸失利益は別に計算します)。
③ 死亡慰謝料
労働者がお亡くなりになった場合の、ご本人とご遺族の精神的苦痛に対する慰謝料です。
| 亡くなられた方の立場 | 裁判基準の相場 |
|---|---|
| 一家の支柱(家計を主に支えていた方) | 2,800万円程度 |
| 母親・配偶者 | 2,500万円程度 |
| その他(独身の方・お子様など) | 2,000万〜2,500万円程度 |
※この金額は、ご本人の慰謝料とご遺族固有の慰謝料(民法711条)を合わせた総額の目安です。ご遺族が受け取れる労災保険の給付や会社への請求の全体像は「家族が仕事中に死亡したら」をご覧ください。
骨折・指の切断・腰痛——ケガの種類別にみる慰謝料の考え方
| ケガの種類 | 慰謝料の考え方 |
|---|---|
| 骨折 | 入院・通院の期間に応じた入通院慰謝料が中心。関節の可動域制限や変形、痛みが残れば後遺障害等級が認定され、後遺障害慰謝料が加わります。治療期間が長くなりやすいため、途中で治療を打ち切らないことが大切です。 |
| 指・手足の切断 | 失った部位と範囲で等級がほぼ決まり、後遺障害慰謝料が金額の中心になります。詳しくは「労災の指切断の慰謝料・賠償金額」「腕・足の切断」をご覧ください。 |
| 腰痛・むちうち | 他覚所見(画像で分かる異常)の有無で入通院慰謝料の表が変わり、後遺障害も14級または12級が多くなります。「腰痛の労災認定」もあわせてご覧ください。 |
| 頭部外傷・脊髄損傷 | 高次脳機能障害や麻痺などの重い後遺症が残った場合は1〜5級などの重度の等級が認定されることが多く、後遺障害慰謝料に加えて将来の介護費用や逸失利益が大きくなります。症状が軽ければ7級以下にとどまることもあります(「高次脳機能障害」「脊髄損傷」)。 |
慰謝料を会社に請求できる条件
慰謝料を請求できるのは、会社に安全配慮義務違反(労働契約法5条)や不法行為責任が認められる場合です。たとえば、機械に安全装置がなかった、墜落防止措置がなかった、安全教育が不十分だった、無理な長時間労働をさせていた——このような事情があれば、会社は損害賠償責任を負います。違反が認められやすい事例と判断の要件は「安全配慮義務違反とは?会社に損害賠償請求できる事例と要件」で詳しく解説しています。逆に、会社に落ち度のない事故では、労災保険の給付は受けられても慰謝料の請求は認められません。
ご自身に一定の不注意(過失)があっても請求は可能です。過失の分だけ減額されることはありますが(過失相殺)、労災事故では会社側の管理責任が重視される傾向にあります(詳しくは「過失相殺の考え方」へ)。なお、実務の計算では、損害総額からまず過失相殺を行い、その残額から労災保険給付を差し引く順序が基本です。
◆ 元請会社にも請求できる場合がある——下請会社の労働者が、元請会社の作業場で、元請の管理する設備・工具を使い、事実上元請の指揮・監督を受けて働き、作業内容も元請の従業員とほとんど同じだった事案で、最高裁は、元請会社は信義則上、その労働者に対して安全配慮義務を負うと判断しました(最高裁平成3年4月11日判決)。建設現場や構内下請で働く方は、直接の雇い主だけでなく元請への請求も視野に入ります。
◆ 特別支給金は賠償額から差し引かれない——最高裁は、労災保険の特別支給金について「被災労働者の損害額から控除することができない」と明確に判断しています(最高裁平成8年2月23日判決)。「労災からもらった分は全部差し引く」という会社側の計算は誤りです。
◆ 事故自体の責任が否定されても、慰謝料だけ認められた例——入社2か月で過酷な工事現場に配属され、極めて長時間の時間外労働と上司のパワハラを受けていた労働者が、飲酒後の交通事故で亡くなった事案で、裁判所は、事故そのものへの会社の責任は否定しつつ、違法な長時間労働とパワハラは安全配慮義務違反にあたるとして、生前の肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料150万円を認めました(津地裁平成21年2月19日判決)。違法な働かせ方そのものが、慰謝料の対象になり得るのです。
慰謝料で損をしないための3つのポイント
- 裁判基準で計算する——会社や保険会社の提示は、裁判基準より大幅に低いことがほとんどです。
- 等級認定を先に固める——後遺障害慰謝料と逸失利益は等級で決まります。等級確定前の示談は禁物です。
- 示談書にサインする前に相談する——一度示談すると、原則としてやり直しはできません。詳しくは「示談書にサインする前に確認すべき5つのこと」へ。
慰謝料に税金はかかる?——原則として非課税です
ケガや死亡など心身に加えられた損害について受け取る慰謝料や損害賠償金は、所得税がかかりません(所得税法9条1項18号・同法施行令30条)。休業損害として受け取る分も同様です。労災保険の給付も、法律上、租税その他の公課を課すことができないと定められており(労災保険法12条の6)、受け取った金額がそのまま手元に残ります。
慰謝料を請求する流れと時効
- 労災保険を申請する——治療費・休業補償を確保し、後遺障害が残れば等級認定を受けます。認定結果は会社への請求でも因果関係の資料になります。
- 証拠を確保する——事故現場の写真、作業指示の記録、同僚の証言、勤怠データなど。時間がたつほど集めにくくなります。
- 症状固定・等級確定後に損害額を計算する——入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・休業損害・逸失利益を裁判基準で積み上げます。
- 会社と交渉し、まとまらなければ労働審判・訴訟へ——流れ・期間・費用は「労災の裁判(民事訴訟)」で解説しています。
※会社への損害賠償請求権の時効は、損害と加害者を知った時から5年です(不法行為では事故の時から、債務不履行では権利を行使できる時から、最長20年)。労災保険の給付の時効(2年・5年)とは別に進みますので、「労災の時効」もご確認ください。
まとめ
労災保険からは、慰謝料は1円も支払われません。慰謝料は入通院・後遺障害・死亡の3種類で裁判基準の相場があり(通院3か月で約73万円、後遺障害は14級110万円〜1級2,800万円、死亡は2,000万〜2,800万円)、会社に安全配慮義務違反があれば労災保険とは別に会社へ請求できます。後遺障害が残れば入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の両方を請求でき、受け取った慰謝料に税金はかかりません。会社の提示額は裁判基準より大幅に低いことがほとんどで、等級確定前の示談は禁物です。
ご自身のケースで請求できる慰謝料の目安を、初回無料のご相談でお伝えします。
よくある質問
Q.労災保険をもらったら、慰謝料は請求できないのですか?
A.請求できます。労災保険の給付に慰謝料は含まれていないため、慰謝料は会社に対して別に請求することになります。
Q.慰謝料はいくらぐらいになりますか?
A.後遺障害慰謝料は等級ごとに裁判基準の目安があります(本文の相場表をご覧ください)。個別の事情によって増減するため、示談前に適正額の確認をおすすめします。
Q.骨折の場合、慰謝料の相場はいくらですか?
A.骨折は入院・通院の期間で入通院慰謝料が決まり、裁判基準では入院1か月+通院3か月で約115万円、入院1か月+通院6か月で約149万円が目安です。関節の動きの制限などの後遺障害が残れば、等級に応じた後遺障害慰謝料(14級110万円、12級290万円など)が加わります。
Q.労災認定がまだでも、会社に慰謝料を請求できますか?
A.請求自体はできます。労災認定は会社への損害賠償請求の要件ではありません。ただし、後遺障害慰謝料は等級が決まらないと金額を出せないため、通常は労災の等級認定を受けてから会社との交渉に入ります。
Q.会社に落ち度がなくても慰謝料はもらえますか?
A.会社への慰謝料請求は、会社に安全配慮義務違反などの落ち度がある場合に限られます。落ち度のない事故では、労災保険の給付(治療費・休業・障害・遺族など)は受けられますが、慰謝料は請求できません。ただし、会社が「落ち度はない」と言っていても、安全装置や教育の不備が背景にあるケースは多く、諦める前に一度ご相談ください。
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