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弁護士コラム

労災は自分の不注意でも補償される?——過失相殺の減額はどこまで

過失割合のイメージ

「よそ見をしていた自分が悪い」「手順を省いたのは自分だ」——労災のご相談で、こうおっしゃって請求を諦めかけている方に数多くお会いしてきました。結論から言います。ご自身に過失があっても、労災保険の給付が減らされることは原則ありませんし、会社への損害賠償請求も諦める必要はありません。

この記事の要点

・労災保険は過失があっても原則減額されない(重過失・故意の場合を除く)
・会社への損害賠償請求には過失相殺があるが、会社の安全配慮義務が重視され限定的にとどまることも多い
・過失割合には確立した基準表がなく、交渉・立証次第で受取額が数百万円単位で変わる

労災保険は、過失があっても減額されないのが原則です

労災保険は労働者の過失を問わない制度です。不注意で事故を起こしても、制度で決まった給付額が過失を理由に減らされることは原則ありません。例外は、故意に事故を起こした場合(支給されません)と、故意の犯罪行為または重大な過失(酒気帯び運転や、明白な安全規則をあえて無視した場合など)により事故を起こした場合(全部または一部の支給制限があり得ます)だけです(労災保険法12条の2の2)。この「重大な過失」は労働基準監督署が厳格に判断するもので、単なる不注意やルール違反があるだけでただちに支給制限されるわけではありません。「自分のミスだから労災は使えない」は完全な誤解です。なお、労災保険の支給制限(行政上の判断)と、会社への損害賠償における過失相殺(民事上の判断)は別の基準で判断されます。後で紹介する「無資格でクレーンを操作した事故」のように、労災保険は支給されたうえで、会社への賠償請求の場面で過失相殺が問題になるのが通常の流れです。

※「減額されない」といっても、損害の100%が労災保険から出るわけではありません。たとえば休業補償は賃金の8割(給付60%+特別支給金20%)までなど、支給額は制度上決まっています(休業補償の解説)。足りない分を会社に請求するのが、次の損害賠償の話です。

会社への損害賠償では「過失相殺」がある——しかし

一方、会社への損害賠償請求では、被災者側の過失の割合に応じて賠償額が減額される過失相殺があります。たとえば損害総額2,000万円で過失3割なら、会社に請求できるのは1,400万円です(※正確には、ここからすでに受け取った労災保険給付の額が差し引かれます。特別支給金は差し引かれません——損益相殺の解説)。会社側はここを最大の争点にしてきます。

※計算の順序は「①損害総額から過失相殺で減額 → ②その残額から受領済みの労災給付を控除」です(最高裁平成元年4月11日判決)。逆の順序で計算すると受取額が小さくなるため、会社側の計算書はこの順序になっているかも確認が必要です。
※なお、労災給付の控除は、休業補償給付は休業損害から、障害補償給付は後遺障害の逸失利益からというように、給付と性質が同じ損害の費目ごとに行われ、慰謝料などからは差し引かれません(損益相殺の解説)。

しかし、労災事故の裁判例には重要な傾向があります。

裁判所は「労働者のミスを前提に安全を確保するのが会社の義務」と考えます
人間は疲れれば注意力が落ち、慣れれば手順を省きたくなる——そうした人間の性質を織り込んで、安全装置や作業手順、教育で事故を防ぐのが会社の安全配慮義務だ、というのが判例の基本的な発想です。だからこそ、「本人の不注意」が原因に見える事故でも、安全カバーの不備や教育不足があれば会社の責任が認められ、過失相殺も限定的にとどまることが少なくありません。
【判例】「自分が悪い」に見える事故で、会社の責任が認められた裁判例
◆ 指示されていない作業でも(長野地裁昭和61年1月30日判決)——堤防工事でタイヤローラーごと転落し亡くなった事故。その作業は会社から明示的に命じられたものではありませんでしたが、裁判所は、当日の現場の状況からその作業を余儀なくされており、会社も暗黙のうちに是認していたとして、会社の安全配慮義務違反を認めました。「勝手にやったことだ」という会社側の言い分が通らなかった事例です。
◆ 無資格での操作でも(千葉地裁平成元年3月24日判決)——運転資格のない作業員がクレーン操作中、吊り荷の落下で右足を挟まれた事故。「無資格で操作した」という明白なルール違反がありながら、元請・下請の安全配慮義務違反を認め、過失相殺は3割にとどまりました。
◆ 体調を申告していなくても(最高裁平成26年3月24日・東芝事件)——うつ病の通院歴や病名は労働者のプライバシーに属する情報であり、申告しなかったことを理由に過失相殺をすることはできないとした最高裁判決です。

過失割合はどのくらい?——当サイトで紹介している裁判例から

交通事故と違い、労災の過失割合には確立した基準表がありません。目安として、当サイトの各記事で判決原文を確認して紹介している裁判例の過失割合を並べると、次のとおりです。

事案労働者側の事情過失相殺
最高裁平成26年3月24日(東芝事件)うつ病の通院歴・病名を会社に申告していなかった過失相殺なし(申告しなかったことを理由に減額できない)
千葉地裁平成元年3月24日運転資格のないままクレーンを操作し、吊り荷の落下で負傷3割
東京地裁平成27年4月27日工場長がプレス機に左手を挟まれ4本の指を切断(安全カバー・自動停止装置なし)4割(指切断の記事)
大阪高裁平成20年7月30日30年以上の経験を持つ一人親方の大工が2階から転落(墜落防止措置なし)8割(一人親方の記事)

※過失割合は個別の事情で決まるもので、同じような事故でも結論は変わります。上の数字は「会社の安全対策の不備が明確なほど過失相殺は小さく、被災者の経験・立場が重いほど大きくなりやすい」という傾向を見るための目安です。

過失相殺以外の減額——性格や持病を理由に減らされるか

会社側は、過失相殺のほかに「本人の性格が原因だ」「もともと持病があった」として賠償額の減額を主張してくることがあります。このうち性格を理由とする減額については、最高裁が過労自殺の事案で、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償において、労働者の性格が通常想定される範囲を外れるものでない限り、性格やこれに基づく業務遂行の態様を理由に賠償額を減額することはできないと判断しています(最高裁平成12年3月24日・電通事件)。一方、既往症など身体的な素因については、事案によって減額が争点になることがあります。いずれも会社側の主張をそのまま受け入れる必要はなく、医学的資料と裁判例に基づいて反論します。

過失割合を左右する事情

労働者側に有利な事情労働者側に不利な事情
安全装置・保護具が用意されていなかった/形だけの安全教育しかなかった/人手不足・納期優先で危険な方法が黙認されていた/上司の指示に従った結果の事故だった/経験の浅い作業者だった 明確に禁止された行為をあえて行った/保護具を渡されていたのに使わなかった/飲酒など職務と無関係な非違行為があった

「黙認されていた危険なやり方」は、現場ではよくあることです。あなた一人がやっていたのか、皆がやっていて会社も知っていたのか——この違いは過失割合を大きく左右します。同僚の証言や日報などで立証していきます。

※一方で、事故の具体的な状況によっては会社の責任自体が認められないケースもあります。過度な期待を持たせる意図ではなく、だからこそ早い段階の証拠確保と見通しの見極めが大切です。

【判例】事故の状況を立証できず、請求が認められなかった例(横浜地裁平成7年2月23日判決)
◆ プレス機の金型が突然落下してケガをしたと主張された事案で、裁判所は、機械の整備不良などの事実が認められず、事故の態様が明らかにならない以上、会社の安全配慮義務違反があったかどうか判断できないとして請求を棄却しました。
◆ 教訓は明確です——事故直後の現場写真・機械の状態・目撃者の記録が、勝敗そのものを分けます。時間が経つほど立証は難しくなりますので、早めにご相談ください。

過失割合は「交渉で動く」数字です

交通事故と違い、労災事故の過失割合には確立した基準表がなく、個別事情の評価と交渉・立証次第で大きく動きます。会社や保険会社の提示する過失割合を鵜呑みにせず、裁判例に照らした適正な割合を主張することが、最終的な受取額を数百万円単位で変えることがあります。ここは弁護士の専門領域です(示談前の確認事項もご覧ください)。

まとめ

労災保険の給付は、ご自身に過失があっても原則として減額されません。会社への損害賠償では過失相殺がありますが、会社の安全配慮義務が重視されて限定的にとどまることも多く、過失割合には確立した基準表がないため交渉と立証で受取額が数百万円単位で変わります。

会社や保険会社が示す過失割合を鵜呑みにせず、初回無料のご相談で適正な割合をご確認ください。

よくある質問

Q.自分の不注意が原因の労災でも、労災保険はもらえますか?

A.もらえます。労災保険は労働者の過失を問わない制度で、不注意で事故を起こしても給付額が過失を理由に減らされることは原則ありません。例外は故意または故意の犯罪行為・重大な過失により事故を起こした場合に限られます。

Q.会社への損害賠償請求では、過失相殺でどのくらい減らされますか?

A.被災者側の過失割合に応じて減額されますが、裁判例には「労働者のミスを前提に安全を確保するのが会社の義務」という傾向があり、安全装置の不備や教育不足があれば過失相殺は限定的にとどまることも少なくありません。交通事故と異なり確立した基準表がなく、交渉・立証次第で結論が大きく変わります。

「自分が悪いから」と諦める前に、一度だけご相談ください

事故状況をお聞かせいただければ、会社の責任を問える可能性と過失割合の見通しを率直にお伝えします。初回相談は無料です。

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