自分にも不注意があった労災——過失相殺でどこまで減額される?
「よそ見をしていた自分が悪い」「手順を省いたのは自分だ」——労災のご相談で、こうおっしゃって請求を諦めかけている方に数多くお会いしてきました。結論から言います。ご自身に過失があっても、労災保険の給付が減らされることは原則ありませんし、会社への損害賠償請求も諦める必要はありません。
労災保険は、過失があっても減額されないのが原則です
労災保険は労働者の過失を問わない制度です。不注意で事故を起こしても、制度で決まった給付額が過失を理由に減らされることは原則ありません。例外は、故意に事故を起こした場合(支給されません)と、故意の犯罪行為または重大な過失(無資格運転や明白な規則違反など)により事故を起こした場合(全部または一部の支給制限があり得ます)だけです(労災保険法12条の2の2)。「自分のミスだから労災は使えない」は完全な誤解です。
※「減額されない」といっても、損害の100%が労災保険から出るわけではありません。たとえば休業補償は賃金の8割(給付60%+特別支給金20%)までなど、支給額は制度上決まっています(休業補償の解説)。足りない分を会社に請求するのが、次の損害賠償の話です。
会社への損害賠償では「過失相殺」がある——しかし
一方、会社への損害賠償請求では、被災者側の過失の割合に応じて賠償額が減額される過失相殺があります。たとえば損害総額2,000万円で過失3割なら、会社に請求できるのは1,400万円です(※正確には、ここからすでに受け取った労災保険給付の額が差し引かれます。特別支給金は差し引かれません——損益相殺の解説)。会社側はここを最大の争点にしてきます。
しかし、労災事故の裁判例には重要な傾向があります。
人間は疲れれば注意力が落ち、慣れれば手順を省きたくなる——そうした人間の性質を織り込んで、安全装置や作業手順、教育で事故を防ぐのが会社の安全配慮義務だ、というのが判例の基本的な発想です。だからこそ、「本人の不注意」が原因に見える事故でも、安全カバーの不備や教育不足があれば会社の責任が認められ、過失相殺も限定的にとどまることが少なくありません。
◆ 指示されていない作業でも(長野地裁昭和61年1月30日判決)——堤防工事でタイヤローラーごと転落し亡くなった事故。その作業は会社から明示的に命じられたものではありませんでしたが、裁判所は、当日の現場の状況からその作業を余儀なくされており、会社も暗黙のうちに是認していたとして、会社の安全配慮義務違反を認めました。「勝手にやったことだ」という会社側の言い分が通らなかった事例です。
◆ 無資格での操作でも(千葉地裁平成元年3月24日判決)——運転資格のない作業員がクレーン操作中、吊り荷の落下で右足を挟まれた事故。「無資格で操作した」という明白なルール違反がありながら、元請・下請の安全配慮義務違反を認め、過失相殺は3割にとどまりました。
◆ 体調を申告していなくても(最高裁平成26年3月24日・東芝事件)——うつ病の通院歴や病名は労働者のプライバシーに属する情報であり、申告しなかったことを理由に過失相殺をすることはできないとした最高裁判決です。
過失割合を左右する事情
| 労働者側に有利な事情 | 労働者側に不利な事情 |
|---|---|
| 安全装置・保護具が用意されていなかった/形だけの安全教育しかなかった/人手不足・納期優先で危険な方法が黙認されていた/上司の指示に従った結果の事故だった/経験の浅い作業者だった | 明確に禁止された行為をあえて行った/保護具を渡されていたのに使わなかった/飲酒など職務と無関係な非違行為があった |
「黙認されていた危険なやり方」は、現場ではよくあることです。あなた一人がやっていたのか、皆がやっていて会社も知っていたのか——この違いは過失割合を大きく左右します。同僚の証言や日報などで立証していきます。
※一方で、事故の具体的な状況によっては会社の責任自体が認められないケースもあります。過度な期待を持たせる意図ではなく、だからこそ早い段階の証拠確保と見通しの見極めが大切です。
◆ プレス機の金型が突然落下してケガをしたと主張された事案で、裁判所は、機械の整備不良などの事実が認められず、事故の態様が明らかにならない以上、会社の安全配慮義務違反があったかどうか判断できないとして請求を棄却しました。
◆ 教訓は明確です——事故直後の現場写真・機械の状態・目撃者の記録が、勝敗そのものを分けます。時間が経つほど立証は難しくなりますので、早めにご相談ください。
過失割合は「交渉で動く」数字です
交通事故と違い、労災事故の過失割合には確立した基準表がなく、個別事情の評価と交渉・立証次第で大きく動きます。会社や保険会社の提示する過失割合を鵜呑みにせず、裁判例に照らした適正な割合を主張することが、最終的な受取額を数百万円単位で変えることがあります。ここは弁護士の専門領域です(示談前の確認事項もご覧ください)。
事故状況をお聞かせいただければ、会社の責任を問える可能性と過失割合の見通しを率直にお伝えします。初回相談は無料です。