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弁護士コラム

労災保険と損害賠償は両方もらえる?——損益相殺で引かれるお金・引かれないお金

労災給付と損害賠償の調整のイメージ

「労災保険をもらったら、会社への損害賠償はその分減るのですか?」——よくいただく質問です。答えは「重なる部分は調整(損益相殺)されるが、引かれないお金もたくさんある」。そして会社側の提示は、この「引かれないお金」まで引いた金額になっていることが少なくありません。この記事では、控除されるお金・されないお金の区別、計算の順序、将来の年金分の扱いまで、調整ルールの全体像を解説します。

大原則——「同じ損害の二重取り」だけが調整される

労災保険の給付は、治療費や収入の減少といった財産的な損害を穴埋めするものです。同じ損害について労災保険と会社の賠償を二重に受け取ることはできないため、会社への損害賠償額からは、すでに受け取った労災保険給付の額が差し引かれます。これを損益相殺(そんえきそうさい)といいます。

重要なのは、控除は「同一の事由」=同じ性質の損害どうしでしか行われないことです。労災給付がどの損害費目に対応するかは、次のように整理されます。

損害の費目対応する労災給付控除
治療費療養(補償)給付される
休業損害休業(補償)給付(60%部分)される
逸失利益障害(補償)給付・遺族(補償)給付される
介護の費用介護(補償)等給付される
慰謝料対応する給付がないされない

慰謝料(精神的苦痛への賠償)に対応する労災給付は存在しないため、労災保険をいくら受け取っていても、慰謝料から差し引くことはできません。「労災でもう十分もらったでしょう」という会社側の言い分に、慰謝料まで削らせない——これが調整ルールの最初の急所です。

「特別支給金」は1円も引かれません

労災保険からのお金には、保険給付本体のほかに特別支給金(休業特別支給金=賃金の20%部分、障害特別支給金、遺族特別支給金など)があります。これは損害の穴埋めではなく被災労働者の福祉の増進のために支給されるものなので、損害賠償から控除できない——最高裁が明確に判断しています。

【判例】控除のルールを定めた最高裁判例
特別支給金は控除できない(最高裁平成8年2月23日判決)——休業特別支給金・障害特別支給金を損害額から差し引くことはできないと明言。会社の示談提示で「労災既払金」に特別支給金が含まれていたら、その分だけ不当に低い提示です。
遺族補償年金の調整方法(最高裁大法廷平成27年3月4日判決)——支給を受け、または支給が確定した遺族補償年金は、逸失利益などの消極損害の元本との間で調整する(遅延損害金から先に充当することはできない)とした大法廷判決。調整のやり方ひとつで受取総額が変わるため、計算のチェックポイントになります。

過失相殺との順序——「引き算の順番」で結果が変わります

労働者側にも落ち度があるケースでは、①裁判基準で損害総額を計算 → ②まず過失相殺で減額 → ③その残額から労災保険給付(特別支給金を除く)を控除、という順序で計算するのが裁判実務です(過失相殺の解説はこちら)。引き算の順番で結果が変わるため、会社側の計算書がこの順序になっているかの確認が必要です。

【判例】引き算の順番を決めた最高裁判例(最高裁平成元年4月11日判決)
◆ 労災保険給付を受けた労働者の損害賠償額の算定について、最高裁は「損害の額から過失割合による減額をし、その残額から保険給付の価額を控除するのが相当」と判断し、計算の順序を確定させました。
◆ 計算例:損害総額1,000万円・過失割合3割・労災給付400万円の場合 → 1,000万円×70%=700万円、そこから給付400万円を控除して、会社に請求できるのは300万円(労災給付と合わせて計700万円を受け取る計算)になります。この型に沿っているか、そして控除対象に特別支給金などの「引いてはいけないお金」が混ざっていないかが、計算書チェックの核心です。

「将来もらう予定の年金」は前もって引かれません

障害(補償)年金や遺族(補償)年金はこれから何年も続きますが、まだ受け取っていない将来分を、あらかじめ損害賠償額から差し引くことはできません。控除されるのは、すでに受け取った分と支給が確定した分だけです。

【判例】将来の給付分の扱い(最高裁昭和52年5月27日判決・同年12月22日判決)
◆ 労災保険から将来にわたり継続して給付されることが確定していても、現実の給付がない以上、その将来分を損害賠償額から控除することを要しない——と最高裁が繰り返し判断しています。12月22日の判決は、会社(使用者)側に対する請求の事案でこの理屈を貫きました。

ただし、これには法律上の調整の仕組みがあります。年金の受給権者が前払一時金(年金の一部を最初にまとめて受け取れる制度。遺族補償年金なら給付基礎日額の1,000日分が上限)を請求できる場合、会社はその最高限度額に達するまでの範囲で、損害賠償の支払いを待ってもらえる(履行猶予)ことになっており、実際に年金や前払一時金が支給されると、その分について会社は賠償責任を免れます(労災保険法附則64条1項)。逆に会社から先に賠償を受けたときは、政府がその価額の限度で年金の支給を調整することがあります(同条2項)。なお、この履行猶予や免責は会社側が主張してはじめて問題になるものです。会社の提示額に当然に織り込まれているとは限らず、根拠の確認が必要です。

このあたりは制度が入り組んでいて、示談のタイミングと内容次第で、将来の年金に思わぬ影響が出る部分です。ご自身で判断せず、示談書にサインする前に必ず専門家のチェックを受けてください。

会社の提示額チェックリスト

  • 「労災既払金」に特別支給金が混ざっていないか(混ざっていたら、その分は上乗せ請求できます)
  • 慰謝料からも労災給付が引かれる計算になっていないか(費目対応のルール違反です)
  • 将来の年金見込み分まで「支払済み」扱いされていないか
  • 過失相殺と控除の順序は正しいか(過失相殺が先)
  • 清算条項で将来の年金受給に影響が出る内容になっていないか

ひとつでも引っかかったら、提示額は適正額より低い可能性が高いといえます。当事務所では、遺族補償後遺障害等級の事案を中心に、会社提示額の無料診断を行っています。

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会社の提示書面(写真・PDFで結構です)をお持ちいただければ、控除の当否と適正額を弁護士が診断します。初回相談は無料です。

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