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弁護士コラム

安全配慮義務違反とは?会社に損害賠償請求できる事例と要件

安全配慮義務のイメージ

結論からお伝えします。労災に遭った場合、会社に安全配慮義務違反があれば、労災保険とは別に、慰謝料や逸失利益を含む損害賠償を会社に請求できます。ただし、事故が起きたというだけで会社の責任が自動的に認められるわけではなく、会社がその危険を予見できたか、防ぐ措置をとれたかが問われます。このコラムでは、安全配慮義務の意味と判断の要件、賠償責任が認められやすい事例10選、逆に請求が認められにくいケース、請求の進め方まで解説します。

この記事の要点

・会社に安全配慮義務違反があれば、労災保険とは別に慰謝料や逸失利益を請求できる
・違反の有無は「会社が危険を予見できたか」「防ぐ措置をとれたか」で判断され、労働安全衛生法令の基準違反は有力な手がかりになる
・雇い主以外にも元請会社や派遣先に請求できる場合がある一方、会社に落ち度のない事故や時効を過ぎた請求は認められない

安全配慮義務とは——労働契約法5条

労働契約法5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。もともと判例(最高裁昭和50年・昭和59年判決など)で確立された義務が、法律に明文化されたものです。

安全配慮義務を築いた4つの最高裁判例
◆ 出発点(昭和50年)——自衛隊の車両整備工場で隊員が死亡した事故で、最高裁は、国は公務の管理にあたって公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮する義務を負うと判示しました(最高裁昭和50年2月25日判決)。安全配慮義務がはじめて最高裁で認められた原点です。

◆ 民間企業への確立(川義事件・昭和59年)——1人で宿直を命じられた新入社員が、押し入った盗賊に殺害された事故で、最高裁は、のぞき窓・インターホン・防犯チェーン等の物的設備も増員等の措置も講じなかった会社に安全配慮義務違反による損害賠償責任を認めました(最高裁昭和59年4月10日判決)。民間の雇用契約における安全配慮義務を確立した判決です。

◆ 元請会社にも(平成3年)——下請会社の労働者が、元請の設備・工具を使い、事実上元請の指揮・監督下で元請従業員とほぼ同じ作業をしていた事案で、元請会社も信義則上、安全配慮義務を負うとされました(最高裁平成3年4月11日判決)。

◆ 「言い出せなかった」労働者を守る(東芝事件・平成26年)——過重業務でうつ病を発症・増悪した労働者が、通院や病名など自らの精神的健康に関する情報を会社に申告していなかった事案で、最高裁は、申告しなかったことを理由に賠償額を減らす(過失相殺する)ことはできないと判断しました(最高裁平成26年3月24日判決)。体調を言い出せなかったことは、あなたの落ち度ではありません。

ポイントは、会社の義務が「事故が起きたら補償する」ではなく、「事故が起きないように先回りして配慮する」義務だという点です。設備・人員・教育・労働時間管理まで、配慮すべき範囲は広く及びます。

安全配慮義務違反はどう判断されるか——予見可能性と結果回避の2つの要件

安全配慮義務違反による損害賠償は、法律上は、契約上の義務を果たさなかったことによる債務不履行責任(民法415条)として請求するのが一般的です。会社自身の故意・過失を問う不法行為責任(民法709条)や、上司・同僚の加害行為について会社が負う使用者責任(民法715条)を併せて主張することもあります。どの根拠で請求しても、裁判では、労働者側が「会社が具体的にどのような安全対策をとるべきだったか」と「会社がそれをしなかったこと」を主張・立証する必要があり(最高裁昭和56年2月16日判決)、実質的に審理されるのは次の2点です。

要件問われること判断材料になるもの
① 予見可能性会社が、その事故や病気の危険を予見できたか(予見すべきだったか)同種のヒヤリハットや過去の事故、労働者からの申し出、長時間労働の記録、労働基準監督署の指導歴、業界で広く知られた危険
② 結果回避義務予見できた危険を避けるために、会社がとるべき措置をとっていたか安全装置・保護具の有無、作業手順と教育、人員配置、労働時間の管理、健康診断後の措置

②で会社に求められる安全対策とは、当時の技術水準や社会通念、会社が管理できる範囲に照らして「現実にとることが可能だった措置」です(結果回避可能性)。安全配慮義務は、事故が起きれば何でも会社の責任になるという結果責任ではなく、防ぎようのない完全な不可抗力まで責任を問われるわけではありません。逆にいえば、客観的に対策が可能だったのにそれを怠っていれば、安全配慮義務違反になります。

これに加えて、義務違反と損害との間の因果関係(会社がその措置をとっていれば事故や病気を防げたといえるか)が必要です。

判断の物差しになるのが労働安全衛生法です。同法は事業者に、機械・設備や作業方法、墜落のおそれのある場所などの危険の防止(20条・21条)、有害物や高温・騒音などによる健康障害の防止(22条)、雇入れ時・作業内容の変更時の安全衛生教育(59条)、健康診断の結果に応じた就業上の措置(66条の5)などを義務づけています。裁判例では、これらの安全衛生法令の規定は会社が負う安全配慮義務の内容を定める基準になると考えられており、法令の基準に違反していれば、安全配慮義務違反も認められやすくなります。法令だけでなく、厚生労働省の指針や通達(熱中症予防の対策、腰痛予防の指針など)も判断の基準になります。もっとも、安全衛生法令は最低基準であり、基準を守っていたからといって必ず責任を免れるわけではなく、労働基準監督署から法令違反を指摘されなかったからといって安全配慮義務違反がなかったことにもなりません。安全配慮義務の内容は、その職場にある具体的な危険に応じて決まります。

なお、労災認定とは別の手続きです。労災保険は会社に落ち度があったかどうかを問わずに補償する制度(無過失責任)で、労働基準監督署の認定では仕事との関係(業務起因性)が判断されるだけで、会社の落ち度は審査されません。これに対し、会社への損害賠償請求では、会社の落ち度(安全配慮義務違反)を労働者側が立証する必要があります。逆に、会社への損害賠償請求に労災認定は必須ではありませんが、認定を受けていれば業務との因果関係を示す有力な資料になります。

安全配慮義務違反の事例10選——賠償が認められやすいケース

  1. 機械に安全カバー・安全装置がなかった——プレス機や切断機の挟まれ・巻き込まれ事故の典型。労働安全衛生規則は、プレス機械に安全囲いや安全装置を設けること(131条)、原動機・回転軸・歯車などの危険部分に覆いや囲いを設けること(101条)を義務づけています。安全装置を意図的に外して運用していた場合はより重い責任が問われます。
  2. 高所作業で墜落防止措置がなかった——手すり・安全帯(現在の法令上の名称は「墜落制止用器具」)・安全ネットの不備。高さ2m以上の場所での作業には、作業床の設置と、作業床の端や開口部への囲い・手すりの設置が義務づけられ、それが難しいときは防網や墜落制止用器具の使用が求められます(労働安全衛生規則518条・519条)。建設現場の墜落事故で最も多い類型です。
  3. 安全教育・作業手順の指導が不十分だった——雇入れ時と作業内容の変更時の安全衛生教育は法律上の義務です(労働安全衛生法59条)。入社直後・配置転換直後の労働者や外国人労働者の事故で特に問題になります。
  4. 危険な作業を一人で行わせていた——監視者・補助者を置かず単独作業させ、事故時の救助も遅れたケース。
  5. 人員不足のまま無理な作業をさせていた——介護現場の一人介助による腰痛・転倒事故などが典型です。
  6. 長時間労働を放置していた——過労による脳・心臓疾患、うつ病などの精神疾患。労働時間の管理そのものが安全配慮義務の内容です。
  7. 整理整頓・床面管理・照明など作業環境の整備を怠っていた——濡れた床や油汚れによる転倒事故は「本人の不注意」で片付けられがちですが、環境整備の不備は会社の責任です。
  8. 暑熱環境への対策を怠っていた——WBGT値(暑さ指数)の把握、休憩・水分補給の確保などを怠った熱中症事案。2025年6月1日からは、熱中症のおそれのある作業について、体調不良を報告させる体制の整備と、作業からの離脱・身体の冷却・受診などの手順の策定・周知が事業者に義務づけられています(労働安全衛生規則612条の2)。
  9. 健康診断後の措置・体調への配慮を怠っていた——健診で異常所見があったのに深夜勤務や重労働を続けさせた場合など。会社には、健診結果についての医師の意見をふまえて、就業場所の変更や労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置をとる義務があります(労働安全衛生法66条の5)。
  10. ハラスメントを放置していた——パワハラの相談を受けながら対応せず、精神疾患を発症させた場合。労働施策総合推進法31条(2026年9月30日までは30条の2)が事業主に義務づける相談体制の整備などの防止措置を怠ったことが、安全配慮義務(職場環境配慮義務)違反の根拠になります。

ひとつでも心当たりがあれば、損害賠償請求を検討する価値があります。10の事例に共通するのは、前の節で述べた「危険を予見できたのに、防ぐ措置をとっていなかった」という構図です。

典型例が実際に認められた裁判例
◆ 機械の安全装置の不備——プレス機に手を挟まれた事故で、身体の一部が可動範囲内にあるときは作動スイッチが入らないような安全装置の設置その他必要な安全管理方法をとるべき義務を怠ったとして会社の責任が認められた例(大阪地裁昭和50年12月23日判決)や、油圧プレスの上型が故障で突然落下して負傷した事故で、安全装置を取り付けなかった会社の義務違反を認めた例(千葉地裁松戸支部昭和60年2月20日判決)があります。

◆ 熱中症への対応の怠り——炎天下の伐採・清掃作業中に従業員が熱中症で死亡した事故で、現場監督的立場の者が体調不良を認識した後も放置し、心肺停止まで救急車を呼ばなかったとして、会社自身の安全配慮義務違反を含む責任が認められ、ご両親にそれぞれ約2,054万円の賠償が命じられました(大阪高裁平成28年1月21日判決。熱中症の労災の解説もご覧ください)。

◆ 持病・健康状態への配慮の怠り——高血圧などの基礎疾患のある高校教諭が勤務中に倒れて亡くなった事案で、健康状態を把握して仕事量の調整等をとるべき健康管理に関する安全配慮義務の違反を認めた例(岡山地裁平成6年12月20日判決)や、高血圧を認識しながらタクシー運転手に過重な労働をさせ、くも膜下出血で死亡させたとして会社の責任を認めた例(福岡地裁平成20年10月9日判決)があります。持病があっても、会社の責任を問えないわけではありません。

雇い主以外にも請求できる場合があります

労働契約法5条が直接定めているのは雇い主(使用者)の義務ですが、直接の雇用契約がない元請会社や派遣先に対しても、実質的な指揮監督関係などに基づく信義則上の安全配慮義務の違反を追及できる場合があります(前述の最高裁平成3年4月11日判決)。

下請の労働者・一人親方現場を実質的に支配・管理していた元請会社に安全配慮義務が認められる場合があります。
派遣社員実際に指揮命令をしていた派遣先にも安全配慮義務があります(派遣元と併せて請求可能な場合も)。
同僚の作業ミスによる事故会社は従業員の加害行為について使用者責任(民法715条)を負います。

請求が認められない・減額されるケース

会社に落ち度がない事故会社が危険を予見できなかった場合や、当時の技術水準や会社の管理が及ぶ範囲からして客観的に防止措置をとることが不可能だった事故(不可抗力の自然災害など)では、労災保険の給付は受けられても、会社への損害賠償請求は認められません。ただし、会社側が「防ぎようがなかった」と主張していても、適切な設備や教育があれば防げた事故であるケースは多くあります。
労働者側にも不注意があった過失相殺として賠償額が減ることがあります。ただし、会社の安全対策の不備が背景にある事故で、労働者の「うっかり」だけが原因にされるべきではありません。うつ病の通院歴や病名のような本人のプライバシーに関わる情報については、過重な業務が続き会社も体調の悪化に気づける状況だった事案で、申告しなかったことを理由とする過失相殺や素因減額は最高裁(東芝事件)で否定されています。
持病・既往症があった損害の拡大に持病が影響した場合に減額(素因減額)されることがあります。持病があるだけで請求できないわけではありません。
時効を過ぎている債務不履行・不法行為のいずれの根拠でも、損害や請求できることを知った時から5年です。知らなかった場合でも、不法行為では事故の時から、債務不履行では権利を行使できる時から20年で消滅します(時効の解説)。なお、2020年3月31日以前に起きた事故には、改正前の民法の時効が適用される場合があります。
すでに示談している清算条項のある示談書を会社と交わしていると、原則として追加の請求はできません。ただし、全損害を把握しにくい段階で早急に少額の示談をしたような場合、示談の時に予想できなかった後遺障害については後から請求できるとした最高裁判例があります(最高裁昭和43年3月15日判決)。サインする前の確認が重要です。

請求できる損害項目

治療関係費、休業損害(労災給付でカバーされない部分)、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料、逸失利益などです。労災保険から受給した分は、治療費は療養(補償)給付から、休業損害は休業(補償)給付から、後遺障害や死亡による逸失利益は障害(補償)給付や遺族(補償)給付から、というように同じ費目の間でだけ差し引かれます(損益相殺)。慰謝料は労災保険から一切支払われないため全額を請求でき、特別支給金は損害の補てんではなく社会復帰促進のための給付のため差し引かれない(最高裁平成8年2月23日判決)など、計算には専門的な調整が必要です。

証拠の集め方——早いほど有利です

  • 事故現場・機械・作業環境の写真、動画
  • 目撃した同僚の氏名・連絡先(可能なら簡単なメモや録音)
  • 作業指示の記録(LINE・メール・業務日報・シフト表)
  • 労働基準監督署の調査資料(労災申請をしていれば、都道府県労働局への保有個人情報開示請求で災害調査復命書などを入手できます)
  • タイムカード・勤怠データ(長時間労働事案)

時間の経過とともに現場は改修され、証拠は失われていきます。会社側が持っている記録(安全教育の実施記録、点検記録、勤怠データなど)は、訴訟を起こした後に裁判所の文書提出命令(民事訴訟法220条)で提出を求める方法があり、改ざんや廃棄のおそれが強いときは訴訟前に裁判所の証拠保全手続(同法234条)を使うこともあります。ただし、どの手段も早く動くほど有効です。一日でも早いご相談をおすすめします。

請求の進め方——労災申請から交渉・訴訟まで

  1. 労災保険を申請する——治療費・休業・後遺障害の給付をまず確保します。認定結果は、会社への請求でも業務との因果関係を示す資料になります(労災申請の進め方)。
  2. 証拠を確保する——前の節のとおり、事故直後ほど集めやすい証拠が多くあります。
  3. 後遺障害の等級が確定してから損害額を計算する——慰謝料や逸失利益は等級で大きく変わるため、症状固定前の示談は避けます。
  4. 会社(または会社側の保険会社)と交渉する——安全配慮義務違反の根拠と損害額の計算を示して請求します。
  5. まとまらなければ労働審判・民事訴訟へ——流れ・期間・費用は「労災の裁判(民事訴訟)」で解説しています。

まとめ

会社に安全配慮義務違反があれば、労災保険とは別に慰謝料や逸失利益を会社へ請求できます。違反の有無は「会社が危険を予見できたか」「防ぐ措置をとっていたか」で判断され、労働安全衛生法令の基準違反は有力な手がかりになります。安全配慮義務は設備・人員・教育・労働時間管理にまで及び、雇い主だけでなく元請会社や派遣先に請求できる場合もあります。一方、会社に落ち度のない事故や時効を過ぎた請求、示談済みの事案では認められません。時効は原則5年ですが、証拠は時間とともに失われていきます。

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よくある質問

Q.安全配慮義務違反があるかどうかは、どうやって判断されますか?

A.会社がその危険を予見できたか(予見可能性)と、危険を防ぐためにとるべき措置をとっていたか(結果回避義務)で判断されます。機械の安全装置の不備、高所作業の墜落防止措置の不備、安全教育不足、長時間労働の放置など、記事で挙げた事例10選に当てはまるものがあれば、違反が認められやすくなります。労働安全衛生法令の基準に違反していたかどうかも重要な手がかりです。

Q.雇い主の会社以外に請求できることもありますか?

A.あります。下請の労働者や一人親方であれば現場を実質的に支配・管理していた元請会社に、派遣社員であれば実際に指揮命令をしていた派遣先にも安全配慮義務が認められる場合があります。また同僚の作業ミスによる事故では、会社に使用者責任(民法715条)を問える場合もあります。

Q.労災認定されていなくても、会社に損害賠償請求できますか?

A.できます。労災保険の認定と会社への損害賠償請求は別の手続きで、認定は請求の要件ではありません。ただし、認定を受けていれば業務との因果関係を示す有力な資料になるため、通常はまず労災申請を進めます。逆に、労災認定されていても会社に落ち度がなければ、賠償請求は認められません。

Q.会社から「本人の不注意が原因だ」と言われました。請求は難しいですか?

A.一概には言えません。労働者側の不注意は過失相殺として賠償額を減らす事情にはなりますが、安全装置の不備や教育不足など会社側の問題が事故の背景にあれば、会社の責任そのものが否定されるわけではありません。会社が労働安全衛生法令の基準を守っていたかどうかを確認することが出発点です。

Q.労働安全衛生法に違反していれば、必ず安全配慮義務違反になりますか?

A.必ずではありませんが、裁判例では安全衛生法令は安全配慮義務の内容を定める基準になると考えられており、有力な手がかりになります。安全衛生法令は事業者が最低限守るべき基準を定めたものなので、違反があれば「その措置をとっていれば事故を防げたか」が問われ、違反が認められやすくなります。反対に、法令の基準を守っていても、その職場にある具体的な危険に応じた配慮を欠いていれば、違反が認められることがあります。

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