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弁護士コラム

家族が仕事中に死亡したら——労災の補償・手続きと会社への請求

ご遺族の補償のイメージ

大切なご家族を仕事中の事故で突然失う——これほど理不尽で、耐えがたいことはありません。最初に、いちばん大切なことだけをお伝えします。ご遺族が受け取れるものは、労災保険の遺族補償給付と、会社への損害賠償の二本立てです。どちらもご遺族ご自身で請求でき、会社からの示談の提示にすぐ応じる必要はありません。深い悲しみの中で、葬儀、会社とのやり取り、警察や労働基準監督署の対応、そして今後の生活のことを同時に考えなければならないご遺族の負担は、計り知れないものがあります。

この記事の要点

・労災保険からは死亡慰謝料は1円も支払われず、遺族年金だけでは逸失利益を賄いきれない
・会社に安全配慮義務違反があれば、死亡慰謝料(2,000万〜2,800万円程度)や逸失利益を損害賠償として請求できる
・特別支給金(300万円)は損害額から差し引かれないため、会社の提示額にこれが含まれていないか確認が必要

このコラムは、そうしたご遺族が受け取れる補償の全体像と、後悔しないために知っておいていただきたいことを、できる限り整理してお伝えするものです。すべてをすぐに理解する必要はありません。必要になったときに、少しずつお読みください。

事故直後の時期に——してほしいこと・避けてほしいこと

してほしいこと

  • 会社からの説明(事故状況・原因)は、日時と内容をメモに残す
  • 会社・警察・労基署から受け取った書類は、すべて保管する
  • 事故現場や作業内容について、同僚の方から聞いた話も記録しておく

避けてほしいこと

  • 会社から早期に提示される見舞金・示談の書面にすぐサインすること——死亡事故の適正な賠償額は数千万円規模になることが多く、初期提示はそれを大きく下回るのが通常です(示談前に確認すべきこと)
  • 「労災ではなく会社の弔慰金で」という提案に応じること——労災申請はご遺族の正当な権利です

労災保険からご遺族が受け取れる給付

給付内容
遺族(補償)年金 遺族の人数に応じて、給付基礎日額の153日分(1人)〜245日分(4人以上)が毎年支給されます。受給できるのは、亡くなられた方の収入で生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹(妻以外は年齢等の要件あり)です。
遺族特別支給金 一時金として300万円が支給されます。
遺族(補償)一時金 年金の受給資格者がいない場合などに、給付基礎日額の1,000日分が支給されます。
葬祭料(葬祭給付) 33万円+給付基礎日額30日分(または給付基礎日額60日分の高い方)が、葬祭を行った方に支給されます(令和8年4月1日以降に支給事由が生じた場合の額)。

※このほか遺族特別年金(ボーナス分を反映)が支給される場合があります。年金は請求から支給決定まで数か月を要することがあります。

労災保険の請求手続き——ご遺族ご自身で申請できます

遺族補償給付の請求は、会社ではなくご遺族が行います。会社が請求書の証明を渋っても申請はでき、その場合は事情を書き添えて提出します(請求書の書き方の解説)。

提出先亡くなられた方の勤務先を管轄する労働基準監督署
請求書遺族(補償)年金は様式第12号(通勤災害は様式第16号の8)。年金の受給資格者がいない場合の遺族(補償)一時金は様式第15号(通勤災害は様式第16号の9)。遺族特別支給金300万円の申請は、原則としてこれらと同じ様式で同時に行います。葬祭料は葬祭を行った方が別途請求します。
主な添付書類死亡診断書・死体検案書など死亡の事実と日付を証明する書類/戸籍謄本など亡くなられた方との身分関係を証明する書類/亡くなられた方の収入で生計を維持していたことを証明する書類(共稼ぎで生計の一部を維持していた場合も含まれます)/遺族厚生年金などが支給される場合はその支給額を証明する書類
受給権者が複数のとき年金の受給権者が2人以上いる場合は、代表者を選んで届け出ます。
前払一時金年金の受給権者は、給付基礎日額の200日分〜1,000日分の範囲で前払一時金を希望できます。前払いを受けた分に達するまで年金は支給停止されます。請求の時効は死亡日の翌日から2年です。
時効遺族(補償)年金・一時金の請求権は、亡くなられた日の翌日から5年で消滅します。期限内に請求書を提出すれば時効の問題はなくなります。

※労災の遺族(補償)年金と、厚生年金・国民年金の遺族年金は同時に受け取れますが、同一の事由による場合は労災の年金の側が一定の割合で減額調整されます。公的年金の請求は年金事務所で別途必要です。
※出典:厚生労働省リーフレット「遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付)の請求手続」。

会社への損害賠償請求——労災保険だけでは償われないもの

労災保険からは、死亡慰謝料は1円も支払われません。また、遺族年金は亡くなられた方が生涯得られたはずの収入(逸失利益)の全額には遠く及びません。会社に安全配慮義務違反があれば、これらを損害賠償として請求できます。

損害項目金額の目安(裁判基準)
死亡慰謝料一家の支柱:2,800万円程度/母親・配偶者:2,500万円程度/その他:2,000万〜2,500万円程度
死亡逸失利益(年収−本人の生活費分)× 就労可能年数に応じた係数で計算。現役世代では数千万円になることが多い項目です。
葬儀関係費150万円程度を上限とする運用が一般的です。

労災保険から受給した年金・一時金は賠償額から調整されますが、特別支給金(300万円)は差し引かれません。また、調整の対象になるのはすでに受け取った分と支給が確定した分で、将来受け取る予定の年金分があらかじめ差し引かれることはありません。ただし、労災保険法の附則64条には、会社が前払一時金の最高限度額(給付基礎日額1,000日分)に相当する額の限度で損害賠償の支払いを猶予できる制度(履行猶予)が定められており、会社側からこれを主張されることがあります。調整方法の検討が必要です。この調整計算は複雑ですので(損益相殺の解説)、弁護士にご確認ください。

【判例】特別支給金を差し引く提示は、最高裁の判断に反します(最高裁平成8年2月23日判決)
◆ 最高裁は、労災保険の特別支給金は被災労働者の福祉の増進のために支給されるもので、損害額から控除することができないと明確に判断しています。会社側の示談提示で「労災既払金」に遺族特別支給金の300万円まで含めて差し引かれていたら、その分だけ不当に低い提示です。この判例を根拠に増額を求めることができます。

警察・労働基準監督署の調査と会社対応

死亡事故では、警察(業務上過失致死傷等)と労働基準監督署(労働安全衛生法違反)の両方が調査を行います。これらの調査記録は、後の損害賠償請求で会社の責任を立証する重要な証拠になります。刑事処分や送検の結果を待たずに、並行して民事の準備を進められます。会社側の説明が調査結果と食い違うことも少なくないため、ご遺族側でも早期に弁護士を通じた証拠収集を始めることをおすすめします。

時系列でみる、ご遺族が進めること

  1. 事故直後〜葬儀まで——会社からの説明をメモし、受け取った書類を保管する。示談・見舞金の書面にはサインしない。死亡診断書(死体検案書)の写しを複数取っておく。
  2. 四十九日前後〜数か月——労働基準監督署に遺族(補償)年金と葬祭料を請求する。年金事務所で遺族厚生年金等を請求する。会社との窓口を一人に絞り、やり取りを記録する。
  3. 調査結果が出る頃——労基署・警察の調査結果や、開示請求で取り寄せた資料をもとに、会社の安全配慮義務違反を検討する。刑事処分の結果を待つ必要はありません。
  4. 示談交渉・訴訟——裁判基準で算定した損害額(死亡慰謝料・逸失利益)から労災給付を調整して請求する。会社が応じなければ訴訟を検討する(民事訴訟の解説)。損害賠償請求権の時効は原則5年です。

時効——ただし、早めのご相談を

遺族(補償)給付の請求権は5年ですが、葬祭料(葬祭給付)の請求権は2年と短い点にご注意ください。会社への損害賠償請求権は、ご家族を亡くされた場合には法律上「生命・身体の侵害」の特例が適用され、損害と加害者を知った時から5年(事故の時から最長20年)で時効にかかります(時効の解説)。時間的な余裕はありますが、証拠の散逸を防ぐ観点からは、心身が少し落ち着かれた段階で、できるだけ早くご相談いただくのが望ましいです。

まとめ

労災保険からは死亡慰謝料は1円も支払われず、遺族年金だけでは逸失利益を賄いきれません。会社に安全配慮義務違反があれば、死亡慰謝料(2,000万〜2,800万円程度)や逸失利益を損害賠償として請求できます。特別支給金300万円は損害額から差し引かれません。

心身が少し落ち着かれた段階で構いません。初回無料のご相談で、手続きと請求の全体像をご説明します。

よくある質問

Q.労災保険の遺族年金をもらえば、それで十分な補償になりますか?

A.十分ではありません。労災保険からは死亡慰謝料は支払われず、遺族年金も逸失利益の全額には及びません。会社に安全配慮義務違反があれば、死亡慰謝料や逸失利益を損害賠償として別途請求できます。

Q.会社から示談金の提示がありましたが、すぐにサインしてよいですか?

A.すぐにサインしないでください。死亡事故の適正な賠償額は数千万円規模になることが多く、早期の提示額はそれを大きく下回るのが通常です。特別支給金が不当に差し引かれていないかも含め、サイン前に確認が必要です。

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