労災の高次脳機能障害——後遺障害等級と賠償金額を解説
結論からお伝えします。労災事故の頭部外傷で高次脳機能障害が残った場合、後遺障害等級は原則として1級・2級・3級・5級・7級・9級のいずれかに認定され、どの等級になるかで受け取れる金額の合計は数千万円単位で変わります。そして適正な等級認定には、画像所見と「日常生活の記録」という2つの立証が欠かせません。この記事は、事故に遭われたご本人はもちろん、手続きを支えるご家族に向けて、等級・金額・今すべきことをまとめたものです。
高次脳機能障害とは——外見からは分からない「見えない障害」
転落・墜落や飛来物の直撃などで頭部に外傷を負ったあと、命は取り留めたものの「事故の前と人が変わってしまった」と感じられることがあります。高次脳機能障害は、脳の損傷によって記憶・注意・感情のコントロールなどの認知機能が低下する障害で、次のような形で現れます。
- 記憶障害——新しいことが覚えられない、同じことを何度も聞く
- 注意障害——集中が続かない、ミスが極端に増える、二つのことを同時にできない
- 遂行機能障害——段取りが立てられない、指示がないと動けない
- 社会的行動障害——怒りっぽくなった、こだわりが強くなった、意欲が湧かない
手足は動き、日常会話もできるため、外見からは障害が分かりにくいのが特徴です。そのぶん、周囲の「以前との違い」の観察が認定の重要な証拠になります。
労災の認定基準——4つの能力で評価されます
労災保険では、脳の器質的損傷による障害について、次の4つの能力がどの程度失われたかで等級を判断します。
- 意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力など)
- 問題解決能力(理解力、判断力など)
- 作業負荷に対する持続力・持久力
- 社会行動能力(協調性、感情の安定など)
4能力の喪失の程度に応じて、高次脳機能障害は原則として1級・2級・3級・5級・7級・9級のいずれかに認定されます。
また、4能力の喪失がごく軽度にとどまる場合でも、12級または14級が認定されることがあります(おおむね、12級=通常の仕事はできるが多少の障害を残す程度、14級=軽微な障害を残す程度)。12級と14級では慰謝料などの金額が大きく変わるため(14級・12級の違いの解説)、「症状が軽いから関係ない」と思わずに、認定の可能性を確認する価値があります。
等級別の金額——労災保険の給付と会社への慰謝料
| 等級 | 状態のめやす | 労災保険の給付 | 後遺障害慰謝料 (裁判基準・会社へ請求) |
|---|---|---|---|
| 第1級 | 常に介護が必要 | 年金:給付基礎日額の313日分/年 | 2,800万円 |
| 第2級 | 随時介護が必要 | 年金:277日分/年 | 2,370万円 |
| 第3級 | 生涯にわたり就労不能 | 年金:245日分/年 | 1,990万円 |
| 第5級 | ごく簡単な仕事しかできない | 年金:184日分/年 | 1,400万円 |
| 第7級 | 軽易な仕事しかできない | 年金:131日分/年 | 1,000万円 |
| 第9級 | 就労可能だが制限が大きい | 一時金:391日分 | 690万円 |
このほか障害特別支給金等が支給されます。全等級の一覧は「後遺障害等級1級〜14級の補償金額一覧」をご覧ください。そして会社に責任がある事故なら、慰謝料に加えて逸失利益(将来の減収分)を請求でき、1〜2級では将来介護費(介護の日額×平均余命分。数千万円規模になることもあります)も賠償の対象になります。
適正な等級認定を受けるための2つの立証
① 画像所見と受傷時の記録
労災での認定は、MRI・CTなどの画像で脳の損傷が確認できること、受傷後に一定の意識障害があったことが原則とされています。事故直後の診療記録・搬送記録は必ず保全してください。時間が経ってからのMRI撮影では損傷が写りにくくなることがあり、早期の検査が重要です。
もっとも、画像に明確な所見が残らなかった場合に、すべてが門前払いになるわけではありません。受傷時の意識障害の程度や持続時間、事故態様(頭部への衝撃の強さ)、受傷直後からの症状の経過といった受傷状況等から脳の損傷が推認され、認定に至る例外的な枠組みもあります。「画像がないから無理」と自己判断せず、記録を揃えたうえでご相談ください。
② 日常生活の記録(ご家族の観察)
認定手続では、ご家族が記載する日常生活の状況に関する報告が重視されます。「同じことを何度も聞く」「以前は温厚だったのに怒鳴るようになった」など、事故前との違いを具体的なエピソードで、日付とともに記録しておいてください。この記録の質が等級を左右します。医師の診察に同行し、ご本人が言えない変化を伝えることも大切です。
会社への損害賠償——等級認定だけで終わらせない
墜落防止措置の不備、安全教育の欠如など、会社に安全配慮義務違反があれば、労災保険では足りない部分(慰謝料・逸失利益・将来介護費など)を会社に請求できます。高次脳機能障害の事案は損害額が大きく、会社側と争いになりやすいため、交渉で決着しない場合は民事訴訟も視野に入ります。損害額が大きい事案ほど、交渉と訴訟の差額も大きくなります。
このとき、実務上きわめて重要な注意点が2つあります。第一に、受け取った労災保険給付は賠償額の計算で損害から差し引かれますが、特別支給金(障害特別支給金など)は賠償額から差し引かれません。会社側の提示額が特別支給金まで控除した計算になっていないか、必ず確認してください。第二に、労災保険給付が差し引かれるのは治療費・休業損害・逸失利益といった対応する費目の財産的損害からのみで、慰謝料から差し引かれることはありません。労災保険には精神的損害(慰謝料)を填補する給付がそもそも存在しないためで、「労災からもらった分、慰謝料は減る」という説明は誤りです。
ご家族が今すべきこと
- 事故直後の記録の保全——診療記録・意識状態の記録・事故状況の写真や目撃者の連絡先
- 日常生活の変化のメモを今日から——日付+具体的なエピソード
- 症状固定を焦らない——高次脳機能障害の症状固定は受傷から1年〜1年6か月以上かけて判断されることが多く、早すぎる打ち切りは等級にも賠償にも不利です
- 早めに弁護士へ——等級申請の前の段階からサポートできることが最も多い類型です
高次脳機能障害の事案は、ご本人が障害を自覚しにくく、手続きのほとんどをご家族が担うことになります。当事務所は重度後遺障害事案への対応に力を入れており、ご家族のみでのご相談も承っています。
受傷の経緯と現在のご様子をお聞かせいただければ、見込まれる等級と会社へ請求できる金額の目安、今すべき準備をご説明します。初回相談は無料です。