「症状固定」と言われたら——それは治療打ち切りではなく、“勝負どころ”です
治療を続けていると、あるとき医師や労働基準監督署から「そろそろ症状固定ですね」と言われることがあります。「見捨てられた」「補償が打ち切られる」と不安になる方が多いのですが、正しく理解すれば、症状固定は後遺障害の認定と会社への損害賠償請求という、金額面で最も重要なステージの始まりです。
症状固定とは何か
症状固定とは、「これ以上治療を続けても、症状の大きな改善が医学的に見込めなくなった状態」をいいます。すっかり元どおりに治ること(完治)とは違います。痛みやしびれ、関節の動かしにくさが残っていても、治療による改善が頭打ちになれば症状固定です。なお、労災保険の制度上はこの状態を「治癒」と呼ぶため、労基署の書類や診断書には「治癒(症状固定)」と書かれることがあります。「治った」という意味ではないので、驚かないでください。
症状固定になると、治療を前提とした療養(補償)給付と休業(補償)給付は原則として終了します(※傷病によっては、固定後の健康管理を支援するアフターケア制度や、症状が著しく再悪化した場合の「再発」の補償が認められることがあります)。ここだけを見ると「打ち切り」に思えますが——
症状固定=補償の終わり、ではありません
症状固定の後には、次の2つの手続きが控えています。
| ① 後遺障害の等級認定 | 残った症状について障害(補償)給付を請求し、1級〜14級の認定を受けます。等級に応じて年金または一時金が支給されます(等級別の金額早見表)。 |
|---|---|
| ② 会社への損害賠償請求 | 認定された等級をもとに、労災保険からは支払われない慰謝料や、労災保険給付だけでは補いきれない逸失利益の不足分を会社に請求します。重い等級では数千万円規模になります。 |
つまり症状固定は、受け取れる金額の「計算の基礎」が確定する分岐点なのです。
症状固定の時期を焦ってはいけない理由
- 治療効果が出ているうちに固定すると、症状が十分改善しないまま治療機会を失います。
- 治療期間が短いと、入通院慰謝料も少なくなります。
- 回復途中の状態で等級審査を受けると、本来より軽い等級になったり、逆に「まだ改善余地がある」として非該当になったりすることがあります。
症状固定の時期は、本来主治医の医学的判断によるべきものです。労基署や会社から促されても、主治医が「まだ治療の効果がある」と考えているなら、その旨を伝えて治療を続けてください。判断に迷ったら、この段階でご相談いただくのが最も効果的です。
頸肩腕症候群にかかった労働者に対し、労基署長が「治癒(症状固定)に達した」として休業補償給付・療養補償給付の不支給処分を繰り返した事案で、東京高裁は、まだ療養の必要性が認められる期間にされた不支給処分を違法として取り消しました(その後、症状が固定したと認められる時期以降の処分は適法と判断。東京高裁平成5年12月21日判決)。
この裁判例から学べることは2つあります。第一に、労基署の症状固定の認定は絶対ではなく、医学的な実態に照らして争う余地があること。第二に、どの時点で「固定」と認められるかで結論が分かれる以上、治療の必要性を示す医学的な資料(症状の経過・治療効果の記録)を診療の段階から残しておくことが決定的に重要だということです。納得できない打ち切りには、審査請求という不服申立ての手段もあります。
後遺障害診断書が、その後のすべてを決めます
症状固定時に主治医が作成する後遺障害診断書(労災用の診断書)は、等級認定審査の最重要資料です。次の点に注意してください。
- 自覚症状(痛み・しびれ・動かしにくさ)を漏れなく具体的に伝える——診断書に書かれていない症状は「存在しない」ものとして扱われます
- 可動域測定・神経学的検査・画像検査(MRI等)など、等級の裏付けとなる検査を受けておく
- 記載内容が薄いと感じたら、提出前に弁護士のチェックを受ける
症状固定後のスケジュール
- 主治医に後遺障害診断書を作成してもらう
- 障害(補償)給付を労基署に請求(業務災害は様式第10号、通勤災害は様式第16号の7)
- 労基署の調査・面談(必要に応じて)を経て等級決定(目安3か月〜)
- 等級を前提に損害額を計算し、会社へ損害賠償請求(示談交渉→訴訟。事案により労働審判)
※労災の障害(補償)給付の請求権は、症状固定の日の翌日から5年で時効により消滅します(時効の解説)。症状固定の判断を先延ばしにしたまま放置せず、早めに手続きを進めてください。
等級決定前に会社から示談を持ちかけられても、応じてはいけません(示談前に確認すべき5つのこと)。
診断書の準備から等級認定、会社への請求まで、いちばん差がつく段階です。初回相談は無料です。