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弁護士コラム

労災の審査請求とは?——不支給・等級に納得できないときの進め方

審査請求のイメージ

結論からお伝えします。労働基準監督署の決定(不支給・後遺障害等級など)は、決定を知った日の翌日から3か月以内に「審査請求」をすれば争えます。覆すには、元の決定時になかった新しい医学的資料が必要です。「これだけ症状が残っているのに14級?」「労災と認められないのはおかしい」——労基署の決定は絶対ではなく、実際に結論が覆る例もあります。ただし期限が短く、同じ主張を繰り返すだけでは覆りません。進め方を解説します。

この記事の要点

・決定に不服があれば審査請求(決定を知った日の翌日から3か月以内)などの不服申立てができる
・開示請求で労基署が認定に使った資料を取り寄せ、決定の理由を把握することが最重要
・元の決定時になかった新しい医学的資料を出せれば結論が覆ることがある

まず、決定の理由を確認する

決定通知書には詳しい理由が書かれていないことがほとんどです。労基署に問い合わせて認定の理由の説明を受けるとともに、保有個人情報開示請求により、労基署が認定に使った資料(調査結果復命書・医学意見など)を取り寄せることができます。開示請求の窓口は、決定をした労働基準監督署ではなく、その労基署を管轄する都道府県労働局です。「なぜ負けたか」を知らずに戦っても勝てません。ここが最重要ステップです。

開示を待つ間に期限が切れないように:開示請求をしてから資料が届くまでには、通常1か月程度(さらに延長されることもあります)かかります。審査請求の期限は3か月ですから、資料の到着を待たずに、まず期限内に審査請求書を提出しておき、資料を読み込んでから詳しい理由を補充する——これが実務的な進め方です。「資料が揃ってから」と考えているうちに期限が来てしまうのが、いちばん避けたい失敗です。

不服申立ての3段階

手続き申立先期限
① 審査請求 労働者災害補償保険審査官
(都道府県労働局)
決定を知った日の翌日から3か月以内
② 再審査請求 労働保険審査会(東京) 審査請求の決定書謄本が送付された日の翌日から2か月以内
③ 取消訴訟 裁判所 審査請求の決定(再審査請求をした場合はその裁決)があったことを知った日から6か月以内

※審査請求から3か月を経過しても決定がないときは、審査請求が棄却されたものとみなして、決定を待たずに労働保険審査会への再審査請求や裁判所への取消訴訟へ進むことも可能です(労災保険法38条2項など)。

※裁判(③取消訴訟)は、①の審査請求に対する決定を経た後でなければ起こせません(審査請求前置・労災保険法40条)。一方、②の再審査請求は必須ではありません。審査請求の決定が出たら、再審査請求をせずにすぐ裁判へ進むこともできます。どのルートが有利かは事案によりますので、決定書が届いた段階でご相談ください。

審査請求の手順——提出先・書き方・使える制度

審査請求の対象になるのは、不支給決定だけではありません。後遺障害等級の認定、療養の打ち切り(治ゆの認定)、休業補償の給付基礎日額の計算など、労基署長が行った労災保険給付に関する決定は、いずれも審査請求で争えます。費用はかかりません。

  1. 決定通知の日付を確認し、期限を逆算する——決定を知った日の翌日から3か月です。審査請求書を郵送で出す場合、郵送にかかった日数は期間に算入されません。やむを得ない事情で期限内に出せなかった場合は、正当な理由を疎明すれば受け付けられることがあります。
  2. 保有個人情報開示請求で、労基署の認定資料を取り寄せる——請求先は労基署ではなく、管轄の都道府県労働局です(前述)。
  3. 審査請求書を、決定をした労基署を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官あてに提出する——様式は厚生労働省や労働局のホームページで入手でき、持参でも郵送でも構いません。期限が迫っていれば、理由は簡潔にして先に提出し、後から補充します。
  4. 証拠を提出し、相手方の資料を閲覧する——主治医の意見書や追加検査の結果などの証拠は、審査官が定めた期間内に提出できます。労基署側が提出した資料は、決定が出るまでの間、審査官に閲覧や写しの交付を求めることができます。
  5. 口頭意見陳述を申し立てる——申立てをすれば、審査官の前で口頭で意見を述べる機会が与えられ、審査官の許可を得て労基署側に質問することもできます。書面だけでは伝わりにくい仕事や生活への支障を、直接説明できる場です。
  6. 決定書を受け取る——決定は文書で行われ、決定書には再審査請求ができる旨と期限が記載されています。決定書の謄本が届いた日の翌日から2か月以内に、再審査請求をするか、裁判へ進むかを判断します。

※審査請求は代理人に依頼できます(労働保険審査官及び労働保険審査会法9条の2)。弁護士が代理人となれば、開示資料の分析から審査請求書・証拠の作成、口頭意見陳述まで一括して行えます。

覆すために必要なのは「新しい医学的資料」です

審査請求で結論が変わるのは、元の決定時になかった材料を出せたときです。たとえば——

  • 後遺障害診断書に書かれていなかった症状・検査結果を補う主治医の意見書
  • 可動域測定のやり直し、神経学的検査、画像(MRI・CT)の追加検査
  • 仕事や日常生活への支障を具体的に示す本人・家族の陳述書、職場の資料
  • 認定基準・通達の当てはめの誤りを指摘する法的な主張書面

どの資料が足りなかったのかは、開示請求で取り寄せた記録を読み解いて初めて分かります。この分析と資料の設計こそ、弁護士が関与する意味がある部分です。

【実際に行政の決定が覆った裁判例】

◆12級が9級に上がった例——大阪地裁平成9年6月16日判決(労働判例721号49頁)
タクシー運転手が乗務中に追突された事案(交通事故による労災)です。労基署長は「局部にがん固な神経症状を残すもの」として12級と認定し、審査請求・再審査請求もいずれも退けられました。しかし取消訴訟で裁判所は、持病(頸椎後縦靱帯骨化症)の素因があったとしても、事故がその症状を発現させた直接の原因であるとして因果関係を認め、「服することができる労務が相当程度に制限されるもの」=9級に当たると判断して、労基署長の処分を取り消しました。「持病のせい」とされた障害が、医学的な立証によって3段階上の等級と認められた例です。

◆一審で負けても高裁で覆り、一時金が年金になった例——東京高裁平成3年1月30日判決(判例タイムズ754号163頁)
建築工事現場で頭部に外傷を負った事案です。労基署長は併合8級(一時金)と認定し、一審の裁判所も処分を維持しました。しかし高裁は、歩行障害は高血圧症・糖尿病といった持病ではなく事故による脊髄の損傷の後遺症であると認め、難聴(11級)との併合繰り上げにより6級(年金)と認定すべきだとして、一審判決ごと処分を取り消しました。等級が上がっただけでなく、給付が一時金から年金へと変わった例です。

どちらも、行政段階の判断や一審判決が、粘り強い医学的立証によって最終的に覆った事案です。長期の争いになった例でもあり簡単な道ではありませんが、「決定は最後まで争えば覆ることがある」ことを示しています。

等級が上がると、会社への請求額も変わります

審査請求で等級が上がれば、労災保険の給付が増えるだけでなく、会社に請求する後遺障害慰謝料・逸失利益も連動して増えます(等級別の金額はこちら)。14級から12級に上がるだけで、賠償総額が数百万円変わることも珍しくありません。会社との示談は、不服申立ての決着まで待つのが原則です(示談前の注意点)。

事情があってどうしても先に示談する場合は、示談書の文言に注意してください。「本件に関し、当事者間には本示談書に定めるもののほか一切の債権債務がないことを確認する」といった清算条項が入っていると、後から等級が上がっても、増額分の慰謝料・逸失利益を会社に請求できなくなるおそれがあります。先行して示談するなら、「労災の障害等級が変更された場合は別途協議・精算する」という条項を入れる交渉が不可欠です。この見極めも含めて、サインする前にご相談ください。

もうひとつ注意したいのが、示談が労災保険の給付に及ぼす影響です。会社から損害賠償を先に受け取ると、労災保険の年金給付が一定の範囲で支給停止されることがあり(労災保険法附則64条)、第三者が加害者の事故では示談の内容によって給付が調整されます。示談の前に受け取れる労災給付は先に受給しておくこと、示談書に「今後受給する労災保険給付は示談の対象に含めない」旨を明記することが、実務上のポイントです(損益相殺と労災給付の調整の解説)。

期限にご注意:審査請求の期限(3か月)を過ぎると、原則としてその決定は争えなくなります。決定通知が届いたら、納得できるかどうかを判断する前でも、まず一度ご相談ください。

まとめ

労基署の決定に不服があれば、決定を知った日の翌日から3か月以内に審査請求などの不服申立てができます。開示請求で労基署が認定に使った資料を取り寄せて決定の理由を把握し、元の決定時になかった新しい医学的資料を出せれば、結論が覆ることがあります。

期限の短い手続きです。決定通知が届いたら、まず初回無料のご相談をご利用ください。

よくある質問

Q.審査請求の期限はどれくらいですか?

A.決定を知った日の翌日から3か月以内です。その後の再審査請求は決定書謄本が送付された日の翌日から2か月以内、取消訴訟は決定(再審査請求をした場合はその裁決)を知った日から6か月以内が期限です。

Q.開示請求の結果が届いてから審査請求すればよいですか?

A.おすすめしません。開示請求で資料が届くまでには通常1か月程度かかるため、資料の到着を待たずにまず期限内に審査請求書を提出しておき、資料を読み込んでから詳しい理由を補充するのが実務的な進め方です。

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