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弁護士コラム

労災の指切断——慰謝料・賠償金額の相場と後遺障害等級

指の切断事故のイメージ

結論からお伝えします。指の切断は、失った指と箇所によって後遺障害等級(第3級〜第14級)が決まり、労災保険から障害(補償)給付と特別支給金が支払われます。ただし、労災保険からは慰謝料は出ません。会社に安全配慮義務違反があれば、等級に応じた慰謝料(110万〜1,990万円)と逸失利益を会社に請求でき、合計で数百万〜数千万円規模になることがあります。プレス機・切断機・ベルトコンベア・食品加工機械——製造業の多い愛知県では、機械に指を挟まれて切断に至る労災事故が後を絶ちません。等級の見方と金額の目安、会社の責任を順に解説します。

この記事の要点

・指の切断は失った指・箇所により後遺障害等級が決まり、等級ごとに慰謝料相場が異なる
・賠償額の柱は後遺障害慰謝料に加えて逸失利益で、労働能力喪失率をめぐり争いになりやすい
・安全カバー未設置など会社の安全配慮義務違反があれば損害賠償を請求できる

指切断の後遺障害等級と慰謝料相場の一覧

どの指を・どこから失ったかで後遺障害等級が決まり、等級に応じて労災保険の給付額と、会社に請求する慰謝料の相場が変わります(等級は労災保険法施行規則の障害等級表によります)。

失った指等級(号)労災保険の障害(補償)給付障害特別支給金後遺障害慰謝料の目安
(裁判基準)
両手の手指すべて第3級(5号)年金:給付基礎日額の245日分/年300万円1,990万円
1手の5本すべて(または母指を含む4本)第6級(7号)年金:156日分/年192万円1,180万円
母指を含む3本(または母指以外の4本)第7級(6号)年金:131日分/年159万円1,000万円
母指を含む2本(または母指以外の3本)第8級(3号)一時金:503日分65万円830万円
母指1本(または母指以外の2本)第9級(8号)一時金:391日分50万円690万円
ひとさし指・中指・くすり指のうち1本第11級(6号)一時金:223日分29万円420万円
小指1本第12級(8号の2)一時金:156日分20万円290万円
母指の指骨の一部を失った第13級(5号)一時金:101日分14万円180万円
母指以外の指の指骨の一部を失った第14級(6号)一時金:56日分8万円110万円

※等級・号数は労働者災害補償保険法施行規則 別表第一(労災の障害等級表)によります。交通事故の自賠責保険の等級表とは号数の付け方が異なりますのでご注意ください。
※「指を失った」=母指は指節間関節(第1関節)、その他の指は近位指節間関節(第2関節)以上を失ったこと(備考2)。
※「用を廃した」=関節(母指は指節間関節、その他の指は中手指節関節または近位指節間関節)に著しい運動障害が残った場合のほか、末節骨の半分以上を失った場合も「用を廃した」(機能障害)として扱われ、原則として「失った」場合より1級下の等級が認定されます(備考3。例:ひとさし指の末節骨の半分以上の欠損は第12級9号、両手の全指の用廃は第4級6号)。
※「指骨の一部を失った」=上記(末節骨の半分以上)に達しない程度に、先端の指骨の一部を失った場合(母指は第13級5号、その他の指は第14級6号)。
※年金・一時金のほかに、ボーナス分に対応する障害特別年金・障害特別一時金(算定基礎日額×同じ日数)も支給されます。全等級の一覧は「後遺障害等級1級〜14級の補償金額一覧」をご覧ください。

労災保険から受け取れる給付——治療費・休業補償・障害給付

労災と認められると、治療費は療養(補償)給付で全額まかなわれ、休業中は休業4日目から給付基礎日額の8割(休業補償給付6割+特別支給金2割)が支給されます(休業補償の解説)。症状固定後に等級が認定されると、上の表の障害(補償)給付と特別支給金が支払われます。

労災保険からの給付の例:給付基礎日額1万2,000円・第9級の場合
障害補償一時金 1万2,000円×391日分=469万2,000円+障害特別支給金50万円(このほか、ボーナス分に応じた障害特別一時金)
※労災保険からは慰謝料は一切支払われません。慰謝料と、労災給付で埋まらない逸失利益は、会社に安全配慮義務違反があれば会社に請求します(次の項目)。労災給付と賠償の調整は「損益相殺の解説」をご覧ください。

賠償金額の柱は「逸失利益」——喪失率をめぐる攻防

指の切断では、後遺障害慰謝料に加えて逸失利益(労働能力が低下したことによる将来の減収分)が賠償額の大きな柱になります。等級ごとに労働能力喪失率の目安が定められています(第3級100%、第6級67%、第7級56%、第8級45%、第9級35%、第11級20%、第12級14%、第13級9%、第14級5%)。

計算例:年収450万円・40歳・第9級(喪失率35%)の場合
450万円 × 35% × 約18.3(67歳までの27年に対応する係数)≒ 約2,880万円
※これに慰謝料690万円などが加わります。
※ただし、会社へ請求できる逸失利益からは、受領済みの労災給付(第9級なら障害補償一時金=給付基礎日額の391日分など)が控除されます(損益相殺)。特別支給金は控除されません。上の合計額がそのまま会社から支払われるわけではない点にご注意ください(詳しくは「損益相殺の解説」)。
※2020年4月以降に発生した事故に適用される法定利率年3%(新ライプニッツ係数)に基づく計算です。

会社側は「指を失っても実際の収入は減っていない」として喪失率を争ってくることがあります。しかし、手作業への支障、昇進・転職への影響、痛みをこらえて働いている実態などを丁寧に立証すれば、適正な喪失率を前提とした賠償が認められる余地は十分にあります。ここは弁護士の交渉力が最も問われる場面です。

会社の責任——安全装置は付いていましたか

機械による切断事故では、次のような事情があれば会社の安全配慮義務違反が認められやすくなります。

  • 安全カバー・両手押しボタン・光線式安全装置などが設置されていなかった、または無効化されていた
  • 清掃・詰まり除去・金型交換のときに機械を停止させない運用が常態化していた
  • 入社直後・配置転換直後で十分な安全教育を受けていなかった
  • 人手不足で本来2人で行う作業を1人でやらされていた

労働安全衛生法令は、プレス機械等について具体的な安全措置を会社に義務付けています。法令違反があれば、責任の立証は大きく前進します。

指の切断事故をめぐる実際の裁判例
◆ ベテランの工場長でも会社の責任が認められた例——工場長だった従業員がプレス機に左手を挟まれ4本の指を切断した事故で、裁判所は、プレス機に安全カバーや自動停止装置を取り付けていなかった会社の安全配慮義務違反を認め、本人の過失を4割としつつ約1,650万円の賠償を命じました(東京地裁平成27年4月27日判決)。「ベテランだから自己責任」という理屈は通りません。

◆ 機械の誤作動(二度落ち)でも会社の責任——地元・愛知の事案——愛知県大府市の自動車部品工場で、プレス機の上型が「二度落ち」して親指を切断した事故について、使用者の安全配慮義務違反が認められました(名古屋地裁昭和55年11月14日判決)。機械の点検・整備の不備による事故でも、会社の責任を追及できます。

◆ 「詰まり除去」中の事故と安全教育義務——木材加工中、集じんダクトに詰まったかんな屑を取り除こうとして、惰力で回転していた刃に指を切断された事故で、裁判所は、危険な箇所を説明し手などを差し入れないよう安全教育を実施すべき義務を会社が怠ったと認めました(福岡地裁久留米支部昭和53年1月27日判決)。「詰まり除去時は機械を停止させる運用」の重要性を裏付ける判決です。

◆ 収入が減っていなくても逸失利益は認められる——事故後の収入が事故前を上回っていた事案で、裁判所は「逸失利益の実質は稼働能力の喪失自体の損害であるから、事故後の収入が事故前より上回っているとの一事をもって逸失利益を否定することはできない」と判断しました(東京地裁八王子支部昭和46年1月18日判決。交通事故の裁判例ですが、労災の賠償請求でも同じ考え方が妥当します)。「給料が減っていないから払わない」という会社側の主張への強力な反論になります。

治療中に、これだけはやっておいてください

  • 事故機械の写真・動画を撮る(安全カバーの有無が分かるように。同僚に頼んでも可)
  • 事故当時の作業指示・人員体制をメモに残す
  • 労基署の調査には事実をそのまま話す(記録は後に証拠となります)
  • 会社からの示談の提案は保留する(サイン前の確認事項)

機械は事故後すぐに改修されることが多く、時間が経つほど「事故当時の状態」の立証が難しくなります。

まとめ

指の切断は失った指・箇所により後遺障害等級が決まり、等級ごとに慰謝料の相場が異なります。賠償額の柱は後遺障害慰謝料と逸失利益で、労働能力喪失率をめぐって争いになりやすく、安全カバー未設置など会社の安全配慮義務違反があれば損害賠償を請求できます。

腕や足を失った場合の等級と金額は「労災で腕・足を切断——後遺障害等級と賠償金額はいくら」で解説しています。機械は事故後すぐに改修されます。治療中の早い段階で初回無料のご相談をご利用ください。

よくある質問

Q.指を切断しても収入が減っていない場合、逸失利益は認められませんか?

A.認められる余地があります。逸失利益の実質は稼働能力の喪失自体の損害であるため、事故後の収入が事故前を上回っているとの一事をもって逸失利益を否定することはできないと判断した裁判例があります。

Q.会社の責任はどのような場合に認められますか?

A.安全カバー・両手押しボタン・光線式安全装置などが設置されていなかった、清掃や詰まり除去のときに機械を停止させない運用が常態化していた、十分な安全教育を受けていなかったなどの事情があれば、会社の安全配慮義務違反が認められやすくなります。

指の切断事故は、等級と喪失率で結果が大きく変わります

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