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弁護士コラム

過労死ラインとは?残業80時間の根拠と労災認定される条件

過労死ラインのイメージ

結論からお伝えします。「過労死ライン」とは、脳・心臓疾患が労災と認定されるかどうかを判断するときの時間外労働の目安で、発症前1か月におおむね100時間、または発症前2〜6か月の平均で月おおむね80時間を超える時間外労働(休日労働を含む)があると、業務と発症の関連性が強いと評価されます。ただし、これは法律上の線引きではなく、80時間に届かなくても、勤務間インターバルの短さや不規則勤務などの負荷が重なれば認定され得ます。働き盛りの家族が突然、脳梗塞や心筋梗塞で倒れた——その背景に過重な労働があったなら、労災の補償と会社への損害賠償の両方を検討してください。

この記事の要点

・過労死ラインは発症前1か月おおむね100時間、2〜6か月平均でおおむね80時間の時間外労働(休日労働を含む)が目安。月45時間を超えると関連性が徐々に強まる
・2021年の基準改正で、ラインに届かなくても労働時間以外の負荷要因(勤務間インターバル11時間未満など)が重なれば認定され得る
・労災認定と会社への損害賠償請求は別物で、慰謝料は会社に安全配慮義務違反があるときに別途請求する

過労死ラインの定義

脳・心臓疾患の労災認定基準では、発症前の時間外労働(週40時間を超える労働)が次の水準にあると、業務と発症との関連性が強いと評価されます。

時間外労働の水準業務と発症との関連性
発症前1〜6か月でおおむね月45時間以内
(おおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合)
関連性は弱い
月45時間を超えて長くなるほど関連性が徐々に強まる
発症前1か月におおむね100時間、または発症前2〜6か月の平均で月おおむね80時間超関連性が強い(=過労死ライン)
上記に届かないが、これに近い時間外労働+労働時間以外の負荷要因総合評価で関連性が強いと判断され得る(2021年改正)

※ここでいう「時間外労働」は、1週間あたり40時間を超えて労働した時間のことで、休日労働の時間も含めて数えます。残業代の計算で使う「1日8時間超」とは数え方が異なります。

これがいわゆる「過労死ライン」です。月80時間の時間外労働とは、毎日4時間残業・休日出勤も含めた水準で、生理的に必要な睡眠時間を削らなければ到達しない負荷とされています。評価の対象期間は発症前おおむね6か月間です。

なお、この数字は残業規制とも対応しています。労働基準法は36協定を結んだ場合でも、時間外労働と休日労働の合計を月100時間未満、2〜6か月の平均で月80時間を超えないことと定めています(労働基準法36条6項)。つまり過労死ラインを超える働かせ方は、それ自体が法律違反である場合がほとんどです。

2021年の基準改正——「ラインに届かなくても」認定される

2021年9月の認定基準改正により、時間外労働が過労死ラインに達していなくても、これに近い水準(たとえば月65〜70時間台)で、労働時間以外の負荷要因が重なれば認定され得ることが明確になりました。労働時間以外の負荷要因には次のようなものがあります。

  • 勤務時間の不規則性——拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務(終業から次の始業までおおむね11時間未満)、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
  • 事業場外の移動を伴う業務——出張の多い業務、時差のある移動を含む業務
  • 心理的負荷を伴う業務・身体的負荷を伴う業務(重量物の運搬など)
  • 作業環境——温度環境、おおむね80デシベルを超える騒音など

「残業80時間に届かないから無理」と門前払いする必要はありません。特定の数字で機械的に線引きされるわけではなく、働き方の全体を見て総合的に判断されます。

認定の3つのパターン——「長期間」だけではない

類型評価する期間典型例
長期間の過重業務発症前おおむね6か月月80〜100時間の時間外労働が続いていた(過労死ラインはこの類型の目安)
短期間の過重業務発症前おおむね1週間発症直前に特に過度の長時間労働があった、1週間続けて深夜に及ぶ残業をした
異常な出来事発症直前から前日まで極度の緊張や恐怖を伴う事故への遭遇、急激で著しい作業環境の変化

「6か月平均では80時間に届かない」場合でも、発症直前の1週間や前日の出来事で認定されることがあります。逆に、過労死ラインを超えていても、持病の自然経過など業務以外の要因が主と判断されれば認定されないこともあり、最終的には業務起因性の総合判断です。

どのくらい認定されているか——令和6年度の件数

厚生労働省が公表した「令和6年度 過労死等の労災補償状況」によれば、令和6年度に業務災害として請求された脳・心臓疾患は1,030件、支給決定(労災認定)は241件で、うち死亡が67件でした。請求・認定とも50〜59歳が最も多く、業種別では運輸業・郵便業が最多です。認定率が高いとはいえない数字ですが、裏を返せば、労働時間と負荷要因をどれだけ具体的に立証できるかで結果が分かれる分野だということです。

過労死をめぐる実際の裁判例
◆ 残業が月38〜65時間でも認められた例——25歳の看護師がくも膜下出血で亡くなった事案で、発症前6か月の時間外労働は約38〜65時間と、当時の基準の例示(80〜100時間)に達していませんでした。しかし裁判所は、当時の基準の例示は睡眠による疲労回復の観点に基づくもので、夜間交替制勤務や不規則勤務、実際に確保できた睡眠の質は十分考慮されていないとし、時間外労働の量だけでなく業務の質的な面を加味して総合判断すべきだとして、公務災害(労災に相当)を認めました(大阪高裁平成20年10月30日判決)。2021年改正の考え方を先取りした判決です。

◆ 「会社が認めていない残業」も労働時間になる(地元・愛知の事案)——自動車製造会社の品質検査業務に従事していた労働者が心停止で亡くなった事案で、会社側は在社時間には業務と関係ない時間が含まれると主張しましたが、裁判所は、退社時刻まで使用者の指揮命令下で労務に従事したと認め、始業前のいわゆる「前残業」も労働時間と推認して業務起因性を認め、豊田労基署長の不支給処分を取り消しました(名古屋地裁平成19年11月30日判決)。タイムカード上の残業だけがすべてではありません。

◆ 会社だけでなく役員個人にも賠償責任(大庄事件)——飲食店従業員が急性左心機能不全で亡くなった事案で、裁判所は会社の安全配慮義務違反を認めたうえ、長時間労働を前提とした勤務体系・給与体系をとり、労働者の生命・健康を損なわない体制を構築していなかった取締役個人にも会社法429条1項に基づく賠償責任を認め、ご両親にそれぞれ約3,900万円の支払いを命じました(京都地裁平成22年5月25日判決)。

対象となる病気

脳血管疾患:脳内出血(脳出血)、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症/虚血性心疾患等:心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む)、重篤な心不全、大動脈解離。一命を取り留めたものの麻痺や高次脳機能障害が残ったケースでは、後遺障害等級の認定と介護費用を含む賠償が問題になります。

労働時間の立証——記録がなくても諦めない

認定の最大の関門は労働時間の立証です。タイムカードが正確ならよいのですが、サービス残業や持ち帰り残業が多い職場ほど記録が残っていません。次のような資料からの再構成が可能です。

  • パソコンのログイン・ログオフ記録、業務メール・チャットの送信時刻
  • 入退館記録、セキュリティカードの履歴
  • 通勤ICカードの乗車履歴、車のETC・ドライブレコーダー記録
  • 家族へのメッセージ(「今から帰る」のLINEなど)、本人の手帳・日記

ご遺族が申請する場合、これらの収集を弁護士が代行・支援できます。会社が資料の任意提出を渋る場合の対応も含めて、早めにご相談ください。

申請の手続きと期限

  • ご本人が倒れて治療中——治療費は様式第5号(労災指定病院)、休業中の収入は休業補償給付(様式第8号)を請求します。認定までの間は健康保険の傷病手当金を並行して申請しておくと生活費が途切れません。
  • ご家族が亡くなった——ご遺族が遺族補償年金(様式第12号)と葬祭料を請求します(ご遺族が進める手続き)。遺族給付の時効は5年、葬祭料は2年です。
  • 調査期間——脳・心臓疾患は労働時間の調査に時間がかかり、決定まで半年以上かかることも珍しくありません。不支給になった場合は審査請求ができます。

請求書の「災害の原因及び発生状況」欄や、会社が証明を渋る場合の出し方は「労災の様式の書き方」をご覧ください。

労災認定と会社への損害賠償は「両方」です

労災認定されると、治療費・休業補償や遺族補償年金(ご遺族の補償の解説)が支給されます。ただし、労災保険からは慰謝料は支払われません。それに加えて、長時間労働を放置していた会社には安全配慮義務違反に基づく損害賠償(慰謝料・労災給付で足りない逸失利益)を請求できます。だからこそ「両方」が必要なのです。過労死・過労疾病の賠償額は数千万円規模になることが多く、労災申請と民事請求を一体で設計することが重要です。

まとめ

過労死ラインは、発症前1か月おおむね100時間、2〜6か月平均でおおむね80時間の時間外労働(休日労働を含む)が目安で、月45時間を超えると業務との関連性が徐々に強まります。2021年の基準改正により、ラインに届かなくても勤務間インターバルの短さや不規則勤務などの負荷が重なれば認定され得るほか、発症直前1週間の過重業務や異常な出来事でも認定されます。労災認定と会社への損害賠償は別物で、慰謝料は会社に安全配慮義務違反があるときに別途請求します。

労働時間の記録がなくても諦めないでください。立証の方法を初回無料のご相談でご説明します。

よくある質問

Q.過労死ラインを超えていれば、必ず労災認定されますか?

A.必ずではありません。過労死ラインを超えると業務と発症との関連性が「強い」と評価されますが、最終的には持病の状況なども含めた業務起因性の総合判断です。ただ、労働時間を客観的な資料で立証できれば認定の可能性は高くなります。

Q.過労死ラインと残業の上限規制は同じものですか?

A.別のものですが数字は対応しています。過労死ラインは労災認定の目安で、残業の上限規制は労働基準法36条が定める会社への規制です。36協定を結んでも時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満、2〜6か月平均で月80時間を超えてはならず、過労死ラインを超える働かせ方は多くの場合それ自体が法律違反です。

Q.残業時間が過労死ラインの月80時間に届いていない場合、労災認定は無理ですか?

A.無理ではありません。2021年9月の認定基準改正により、時間外労働が過労死ラインに達していなくても、これに近い水準で、勤務間インターバルの短さや不規則勤務、心理的・身体的負荷の大きい業務といった労働時間以外の負荷要因が重なれば認定され得ることが明確になりました。数字だけで機械的に線引きされるわけではありません。

Q.タイムカードに残業時間が正確に記録されていません。労働時間はどう証明すればよいですか?

A.タイムカード以外にも、パソコンのログイン・ログオフ記録、業務メール・チャットの送信時刻、入退館記録やセキュリティカードの履歴、通勤ICカードの乗車履歴、家族へのメッセージや本人の手帳・日記などから労働時間を再構成できます。ご遺族が申請する場合、これらの収集を弁護士が代行・支援することも可能です。

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