Column

弁護士コラム

パワハラでうつ病になったら、労災認定される?——認定基準をわかりやすく解説

職場のストレスによる精神疾患のイメージ

上司からの執拗な叱責、無視、過大なノルマ、終わらない残業——心が壊れてしまう前に、そして壊れてしまった後でも、知っておいてほしいことがあります。仕事が原因のうつ病・適応障害などの精神疾患は、労災の対象です。ケガの労災より認定のハードルは高いものの、国の認定基準に沿って準備すれば道はあります。

今つらい状況にある方は、まず治療と休養を最優先してください。手続きの期限には比較的余裕があります(休業補償などの請求権は2年、障害・遺族補償などは5年で時効になります。詳しくは時効の解説へ)。ご家族が代わりに相談することもできます。

精神疾患の労災認定・3つの要件

  1. 対象となる精神疾患(うつ病、適応障害、PTSDなど)を発病していること
  2. 発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の原因(私生活の出来事や既往)で発病したとは認められないこと

ポイントは②です。国の「心理的負荷評価表」に基づき、出来事ごとの負荷が「弱・中・強」で評価され、総合評価が「強」になると認定されます。

「強」と評価されやすい具体例

  • パワーハラスメント——殴る等の身体的攻撃を受けた/人格を否定するような精神的攻撃が執拗に行われた/それらを会社に相談しても改善されなかった
  • 極度の長時間労働——発病直前の1か月におおむね160時間を超える時間外労働など
  • 長時間労働との組み合わせ——「中」程度の出来事でも、月100時間程度の恒常的な長時間労働が重なると「強」に引き上げられ得ます
  • 重大な事故・災害の体験——重度のケガをした、悲惨な事故を目撃した
  • セクシュアルハラスメント・カスタマーハラスメント——身体接触を伴うセクハラ、著しい迷惑行為の反復など(近年の基準改正で明確化されました)

証拠の集め方——「記録」がすべてを決めます

精神疾患の労災は、出来事の存在と程度の立証が勝負です。可能な範囲で、次のものを残してください。

  • パワハラ発言の録音、メール・LINE・チャットのスクリーンショット
  • 日々の出来事を記録した日記・メモ(日付入りで具体的に)
  • 労働時間の記録——タイムカード、PCのログ、通勤ICカードの履歴、家族へのメール時刻など
  • 会社・相談窓口に相談した記録(相談日時・相手・回答)
  • 受診の記録——早めに心療内科・精神科を受診し、職場の状況を医師に伝えてカルテに残す

ご本人が動けない状態のときは、ご家族が記録の保全だけでも進めておくと、後の申請が大きく変わります。

パワハラ・過重業務による精神疾患をめぐる裁判例
◆ 一審敗訴から逆転で労災が認められた例(地元・愛知の事案)——自動車会社に勤務していた方が、業務による相当の心理的負荷に加えて上司からのパワーハラスメントを受け、うつ病を発病して自ら命を絶った事案で、名古屋高裁は、各出来事の数や内容等を総合的に考慮して業務と発病・自殺との相当因果関係を認め、豊田労働基準監督署長の遺族補償給付等の不支給処分を取り消しました(名古屋高裁令和3年9月16日判決。一審の敗訴からの逆転です)。一つひとつの出来事の評価が「中」でも、諦める必要はありません。

◆ 「違法行為を命じられた」ことが認められた例——業務に関連して重大な違法行為を命じられ、何度もそれに従ったことによる強い心理的負荷でうつ病を発病したとして、労基署の不支給処分が取り消されました(東京地裁令和6年4月11日判決)。暴言や長時間労働だけでなく、不正への加担を強いられた苦痛も労災の対象になり得ます。

◆ 書類を投げつける・暴言も「強」と評価された例——自動車整備士に対し、上司が書類を投げつけ、「ガン」などの精神的攻撃にあたる発言をしたことが認められ、心理的負荷「強」として3度の不支給処分がすべて取り消されました(大阪地裁令和6年7月31日判決)。職場で起こりがちな行為が、正面から「強」と判断されています。

◆ 会社への損害賠償を支える2つの最高裁判例——長時間労働からうつ病・自殺に至った事案で会社の賠償責任を認め、労働者の性格が通常想定される範囲内なら賠償額を減らす理由にできないとした電通事件(最高裁平成12年3月24日判決)。そして、通院や病名を会社に申告しなかったことを労働者の落ち度として扱うことはできないとした東芝事件(最高裁平成26年3月24日判決)。「真面目すぎる性格のせい」「黙っていた方が悪い」という会社側の主張は、最高裁レベルで退けられています。

認定までの期間と、会社への損害賠償

精神疾患の労災は労基署の調査におおむね6か月以上かかります。認定されれば治療費と休業補償が支給されます。さらに、労災による療養のための休業期間中とその後30日間は、法律上、解雇が禁止されます(労働基準法19条。詳しくは解雇制限の解説へ)。

さらに、パワハラの放置や長時間労働の放置は、会社の安全配慮義務違反にあたる可能性が高いといえます。労災保険からは支払われない慰謝料や休業損害の差額を、会社(および加害者個人)に損害賠償として請求できます。取り返しのつかない事態に至ってしまった場合の、ご遺族からの請求も可能です。

ご本人でも、ご家族からでも。まずは状況をお聞かせください

体調に配慮し、オンライン・お電話での面談、ご家族のみのご相談にも対応しています。初回相談は無料です。

解決事例・コラム一覧へ戻る
電話で相談予約052-253-5986 メールで相談予約24時間受付