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弁護士コラム

パワハラでうつ病になったら労災になる?——認定基準と申請の流れ

職場のストレスによる精神疾患のイメージ

結論からお伝えします。パワハラや長時間労働が原因のうつ病・適応障害などの精神疾患は労災の対象で、発病前おおむね6か月の業務による心理的負荷が「強」と評価されれば認定されます。上司からの執拗な叱責、無視、過大なノルマ、終わらない残業——心が壊れてしまう前に、そして壊れてしまった後でも、知っておいてほしいことがあります。ケガの労災より認定のハードルは高いものの、国の認定基準に沿って準備すれば道はあります。

この記事の要点

・精神疾患の労災認定には3要件(発病・発病前6か月の強い心理的負荷・業務以外の原因でないこと)がある
・パワハラや極度の長時間労働、それらの組み合わせは心理的負荷「強」と評価されやすい
・録音・メモ・労働時間記録などの証拠が勝敗を分け、会社への慰謝料請求も可能

今つらい状況にある方は、まず治療と休養を最優先してください。手続きの期限には比較的余裕があります(休業補償などの請求権は2年、障害・遺族補償などは5年で時効になります。詳しくは時効の解説へ)。ご家族が代わりに相談することもできます。

精神疾患の労災認定・3つの要件

  1. 対象となる精神疾患(うつ病、適応障害、PTSDなど)を発病していること
  2. 発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の原因(私生活の出来事や既往)で発病したとは認められないこと

ポイントは②です。国の「心理的負荷評価表」に基づき、出来事ごとの負荷が「弱・中・強」で評価され、総合評価が「強」になると認定されます。

「強」と評価されやすい具体例

  • パワーハラスメント——殴る等の身体的攻撃を受けた/人格を否定するような精神的攻撃が執拗に行われた/それらを会社に相談しても改善されなかった
  • 極度の長時間労働——発病直前の1か月におおむね160時間を超える時間外労働など
  • 長時間労働との組み合わせ——「中」程度の出来事でも、月100時間程度の恒常的な長時間労働が重なると「強」に引き上げられ得ます
  • 重大な事故・災害の体験——重度のケガをした、悲惨な事故を目撃した
  • セクシュアルハラスメント・カスタマーハラスメント——身体接触を伴うセクハラ、著しい迷惑行為の反復など(近年の基準改正で明確化されました)

パワハラの「強」「中」「弱」はどこで分かれるか——評価表の具体例

認定基準の評価表では、パワハラは「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」という出来事として評価されます。ここでいう「上司等」には、職務上の地位が上の人だけでなく、業務上必要な知識や経験を持ち協力が得られないと仕事が回らない同僚・部下や、同僚・部下からの集団による行為で抵抗が難しい場合も含まれます。評価の分かれ目は次のとおりです。

評価具体例(厚生労働省の評価表より)
強治療を要する程度の暴行を受けた/暴行を執拗に受けた/人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要のない精神的攻撃が執拗に行われた/必要以上に長時間の厳しい叱責や、他の労働者の面前での大声の威圧的な叱責が執拗に行われた/「中」程度の攻撃でも、会社に相談して適切な対応がなく改善されなかった
中治療を要さない程度の暴行、人格否定的な精神的攻撃、長時間の叱責などがあったが、反復・継続していない場合
弱「中」に至らない程度の身体的攻撃・精神的攻撃

※ポイントは「執拗性(反復・継続)」と「会社に相談したが改善されなかったこと」です。1回の出来事は「中」でも、繰り返されていたこと、相談したのに放置されたことを記録で示せれば「強」になり得ます。
※令和5年9月の認定基準改正で、パワハラの6類型(身体的攻撃・精神的攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害)すべてについて具体例が明記され、性的指向・性自認に関する精神的攻撃も含まれることが示されました。あわせてカスタマーハラスメントの出来事が追加され、既に精神疾患があった方が業務の強い負荷で悪化した場合に、悪化した部分を労災と認める範囲も広がっています。

パワハラによるうつ病の労災申請の流れと、認定の実情

  1. 心療内科・精神科を受診し、職場の状況を医師に伝える——診断名と発病時期が認定の出発点になります。
  2. 労働基準監督署に請求書を提出する——治療費は様式第5号(労災指定医療機関の場合)、休業補償は様式第8号です。会社の証明が得られなくても申請できます(請求書の書き方の解説)。
  3. 労基署の調査——本人・会社・同僚からの聴き取り、主治医の意見、専門医の意見(令和5年改正で、特に困難な事案を除き専門医1名の意見で決定できるようになりました)をもとに、出来事を評価表に当てはめて判断します。おおむね6か月以上かかります。
  4. 決定——不支給や内容に納得できないときは審査請求で争えます(審査請求の解説)。

認定は容易ではありませんが、増えています。厚生労働省「令和6年度 過労死等の労災補償状況」(令和7年6月公表)によると、令和6年度の精神障害の労災請求は3,780件、支給決定は1,056件で過去最多となり、認められた出来事で最も多かったのが「上司等からのパワーハラスメント」(224件)でした。パワハラを原因とする労災は、制度上も実務上も、正面から認められる時代になっています。

証拠の集め方——「記録」がすべてを決めます

精神疾患の労災は、出来事の存在と程度の立証が勝負です。可能な範囲で、次のものを残してください。

  • パワハラ発言の録音、メール・LINE・チャットのスクリーンショット
  • 日々の出来事を記録した日記・メモ(日付入りで具体的に)
  • 労働時間の記録——タイムカード、PCのログ、通勤ICカードの履歴、家族へのメール時刻など
  • 会社・相談窓口に相談した記録(相談日時・相手・回答)
  • 受診の記録——早めに心療内科・精神科を受診し、職場の状況を医師に伝えてカルテに残す

ご本人が動けない状態のときは、ご家族が記録の保全だけでも進めておくと、後の申請が大きく変わります。

パワハラ・過重業務による精神疾患をめぐる裁判例
◆ 一審敗訴から逆転で労災が認められた例(地元・愛知の事案)——自動車会社に勤務していた方が、業務による相当の心理的負荷に加えて上司からのパワーハラスメントを受け、うつ病を発病して自ら命を絶った事案で、名古屋高裁は、各出来事の数や内容等を総合的に考慮して業務と発病・自殺との相当因果関係を認め、豊田労働基準監督署長の遺族補償給付等の不支給処分を取り消しました(名古屋高裁令和3年9月16日判決。一審の敗訴からの逆転です)。一つひとつの出来事の評価が「中」でも、諦める必要はありません。

◆ 「違法行為を命じられた」ことが認められた例——業務に関連して重大な違法行為を命じられ、何度もそれに従ったことによる強い心理的負荷でうつ病を発病したとして、労基署の不支給処分が取り消されました(東京地裁令和6年4月11日判決)。暴言や長時間労働だけでなく、不正への加担を強いられた苦痛も労災の対象になり得ます。

◆ 書類を投げつける・暴言も「強」と評価された例——自動車整備士に対し、上司が書類を投げつけ、「ガン」などの精神的攻撃にあたる発言をしたことが認められ、心理的負荷「強」として3度の不支給処分がすべて取り消されました(大阪地裁令和6年7月31日判決)。職場で起こりがちな行為が、正面から「強」と判断されています。

◆ 会社への損害賠償を支える2つの最高裁判例——長時間労働からうつ病・自殺に至った事案で会社の賠償責任を認め、労働者の性格が通常想定される範囲内なら賠償額を減らす理由にできないとした電通事件(最高裁平成12年3月24日判決)。そして、通院や病名を会社に申告しなかったことを労働者の落ち度として扱うことはできないとした東芝事件(最高裁平成26年3月24日判決)。「真面目すぎる性格のせい」「黙っていた方が悪い」という会社側の主張は、最高裁レベルで退けられています。

認定までの期間と、会社への損害賠償

精神疾患の労災は労基署の調査におおむね6か月以上かかります。認定されれば治療費と休業補償が支給されます。さらに、労災による療養のための休業期間中とその後30日間は、法律上、解雇が原則として禁止されます(労働基準法19条。詳しくは解雇制限の解説へ)。※天災事変などで事業の継続が不可能になった場合や、会社が打切補償(労働基準法81条)を支払った場合など、法律上の例外もあります。

さらに、パワハラの放置や長時間労働の放置は、会社の安全配慮義務違反にあたる可能性が高いといえます。労災保険からは支払われない慰謝料や休業損害の差額を、会社(および加害者個人)に損害賠償として請求できます。取り返しのつかない事態に至ってしまった場合の、ご遺族からの請求も可能です。

まとめ

精神疾患の労災認定には、発病・発病前おおむね6か月の強い心理的負荷・業務以外の原因でないことの3要件があります。パワハラや極度の長時間労働、その組み合わせは心理的負荷「強」と評価されやすく、録音・メモ・労働時間記録などの証拠が勝敗を分けます。労災保険から出ない慰謝料は会社に請求できます。

証拠が十分か不安な段階でも構いません。初回無料のご相談で整理をお手伝いします。

よくある質問

Q.一つひとつのパワハラの程度が軽い場合でも労災は認められますか?

A.認められる可能性があります。名古屋高裁の事案では、各出来事の数や内容等を総合的に考慮して業務と発病・自殺との相当因果関係が認められました。一つひとつの評価が「中」でも、諦める必要はありません。

Q.労災が認定されたら、会社に慰謝料を請求できますか?

A.できます。パワハラの放置や長時間労働の放置は会社の安全配慮義務違反にあたる可能性が高く、労災保険からは支払われない慰謝料や休業損害の差額を、会社(および加害者個人)に損害賠償として請求できます。

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