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弁護士コラム

労災で遷延性意識障害(植物状態)に——後遺障害等級と補償・賠償金額【ご家族の方へ】

ベッドサイドで寄り添うご家族のイメージ

頭を強く打つ事故の後、意識が戻らないまま治療が続いている——このページは、そんな状況のご家族に向けて書いています。医学的には遷延性意識障害(いわゆる植物状態)と呼ばれる状態です。まだ先のことは考えられないかもしれませんが、労災の等級認定・給付・会社への損害賠償という「これからの生活を支えるお金」の話は、早い段階でご家族が知っておくことに意味があります。この類型は後遺障害の中でも最も重い1級に位置づけられ、賠償総額は1億円を超えることもある領域です。

この記事の要点

・遷延性意識障害は、原則として後遺障害等級1級(常時介護を要する状態)にあたる
・労災保険の年金・介護給付には上限があり、不足分は将来介護費として会社に請求できる可能性がある
・ご本人の意思確認が難しい場合、示談や訴訟には成年後見人の選任が必要になることが多い

遷延性意識障害(植物状態)とは

頭部外傷などで脳に重い損傷を受けると、生命を保つ機能(呼吸・血圧など)は保たれているのに、自分の意思で身体を動かしたり、周囲とやり取りしたりすることができない状態が続くことがあります。日本脳神経外科学会植物状態患者研究協議会は、次の6つの状態がほとんど改善のないまま3か月以上続いた場合を遷延性意識障害(植物状態)としています。

  • 自分の力では移動できない
  • 自分の力では食事ができない
  • 尿や便を漏らしてしまう状態が続く
  • 意味のある言葉を発することができない
  • 簡単な指示にかろうじて応じることはあっても、意思の疎通はほとんどできない
  • 目は開いて物を追うような動きがあっても、それが何かを認識できているとは言えない

こうした状態は、時間の経過とともに少しずつ変化することもあれば、長期間ほとんど変わらないこともあり、経過は一人ひとり異なります。ご本人の状態がどうであれ、労災の手続きや会社への請求は、以下でご説明するとおりご家族が代わって進めることができます。

後遺障害等級——原則として1級(常に介護を要する状態)

労災の障害等級表では、神経系統の機能または精神に著しい障害が残り、「食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要する」状態は第1級にあたるとされています。遷延性意識障害は、この「常時介護を要する」状態そのものにあたることから、原則として後遺障害等級1級として認定されます。

等級状態のめやす(認定基準より)
1級神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
2級神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの

※等級は個別の状態によって認定されるものであり、必ず1級になるとは限りません。医師の診断書・意見書の内容が認定を大きく左右しますので、後遺障害診断書の作成段階からのご相談をおすすめします(症状固定と後遺障害診断書の重要性)。

労災保険から受けられる給付

  • 障害補償年金——1級は給付基礎日額の313日分が毎年支給されます。あわせて障害特別支給金342万円などの一時金もあります
  • 介護(補償)等給付——常時介護の場合、実費(上限186,050円)または、ご家族が介護している場合の最低保障額90,790円が月々支給されます(令和8年度。金額と手続きの詳細はこちら)

※上記の上限額・最低保障額は厚生労働省の告示により毎年度改定されます。実際の請求時には最新の告示額をご確認ください。

ただし、これらを合計しても、失われた収入と介護の実際の負担のすべてはカバーされません。そして慰謝料は労災保険から1円も出ません。24時間の見守りが必要な状態では、介護の実費が給付の上限を大きく超えることも少なくないため、次にご説明する会社への損害賠償請求が重要になります。

会社への損害賠償——1億円を超え得る領域です

会社に安全配慮義務違反や不法行為責任(民法709条)が認められる場合、労災保険とは別に損害賠償を請求できます。1級(労働能力喪失率100%)と認定された40歳・年収500万円の方を例にすると——

  • 逸失利益——約9,200万円(年収500万円×喪失率100%×67歳まで27年のライプニッツ係数18.327)
  • 後遺障害慰謝料——2,800万円(裁判基準)
  • これに将来介護費が加わります

※上記の試算は、民法改正後の法定利率(年3%)に基づくライプニッツ係数を用いています。加害者側から改正前の年5%の係数と混同した反論がなされることもありますので、計算の前提となる利率にはご注意ください。

将来介護費は、ご家族が介護する場合でも、職業付添人に準じた近親者介護費(日額8,000円程度が目安)を、平均余命の年数分請求できます。たとえば日額8,000円・平均余命40年であれば、8,000円×365日×約23.1(ライプニッツ係数)で約6,700万円という規模になり、これらを合計すると賠償総額は1億円を大きく超える水準になり得ます。

遷延性意識障害では、実際の余命が平均より短くなる可能性を会社側から指摘されることがある一方、平均余命どおりの期間を認めた裁判例もあり、この点は事案によって判断が分かれます。また近年は、こうした余命の不確実性を理由に、将来介護費を一括の一時金ではなく、ご本人が亡くなるまで月々支払う「定期金賠償」とすべきだという主張が会社側からなされることも増えています。実際に、東京地裁平成24年10月11日判決(東京高裁平成25年3月14日判決で維持・確定)は、将来介護費について、口頭弁論終結の翌日から本人の死亡に至るまで毎月一定額を支払う方式を採用しました。定期金賠償は月々の支払いが生涯続く仕組みで、一時金とは資金計画やその後の手続きが異なりますので、示談・訴訟の中でどちらの方式を求めるか、丁寧に検討する必要があります。

【裁判例が示す遷延性意識障害の賠償】

◆平均余命どおりの介護期間を認めた例——名古屋地裁平成23年2月18日判決(交通事故民事裁判例集44巻1号230頁)
事故時20歳の大学生が頭部外傷後に遷延性意識障害・四肢体幹運動機能障害(1級1号)となった事案です。加害者側は将来介護費の対象期間を短縮すべきと主張しましたが、裁判所は「平均余命の57年間よりも短い期間と認める理由はない」として、平均余命全期間の介護費用を認めました。余命の主張は必ず通るとは限らないことを示す例です。

◆成年後見の申立費用も損害と認めた例——名古屋地裁令和5年1月27日判決(交通事故民事裁判例集56巻1号)
遷延性意識障害・四肢体幹運動障害(1級1号)となった会社員男性について、ご家族が示談・訴訟のために行った成年後見の申立実費(1万8,196円)と、その手続きを依頼した弁護士費用(25万円)を、いずれも事故と相当因果関係のある損害として加害者側に負担させた事案です。手続き費用そのものも賠償の対象になり得ることを示しています。

※上記2件および前述の定期金賠償の裁判例(東京地判平24.10.11)は、いずれも労災ではなく交通事故の事案ですが、後遺障害等級・介護費用・慰謝料の算定方法は、会社への損害賠償請求でも共通する考え方です。

ご本人の意思確認が難しいとき——成年後見制度・特別代理人

示談書へのサインや訴訟の提起には、本来ご本人の意思確認が必要です。遷延性意識障害でご本人の意思確認が難しい場合、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立て、選任された成年後見人(民法843条)がご本人に代わって示談交渉や訴訟を進めることになります。この手続きには一定の時間がかかるため、症状固定の前後から準備を始めておくと、その後の請求がスムーズです。

なお、示談交渉ではなく訴訟の提起に絞る場合には、成年後見人よりも短期間で選任できることがある特別代理人(民事訴訟法35条)という制度を利用できる場合もあります。特別代理人は、その訴訟に限って本人に代わって手続きを進める代理人で、成年後見人のような包括的な財産管理の権限までは持ちません。事案の状況に応じてどちらの制度が適しているか、早めにご相談ください。

ご家族が今すべきこと

  • ① 事故状況の証拠を確保する——現場の状況、安全設備の有無、目撃した同僚の連絡先。時間が経つほど現場は変わり、記憶は薄れます
  • ② 医療記録を押さえる——画像所見や意識レベルの経過を示すカルテは、等級認定の裏付けになります
  • ③ 介護・付き添いの記録をつける——面会や付き添いの頻度・内容の記録は、介護の実態を示す証拠になります
  • ④ 会社からの示談の話は保留に——一度示談書にサインすると、原則としてやり直しは効きません。等級確定の前の示談は禁物です(示談前の注意点)
  • ⑤ ご家族だけで抱え込まない——ご本人が意思表示できなくても、ご家族からのご相談で手続きは進められます。ほかの重度後遺障害についてのご案内もあわせてご覧ください(ご家族のためのガイド)

まとめ

遷延性意識障害は、原則として後遺障害等級1級(常時介護を要する状態)にあたります。労災保険の年金・介護給付には上限があり、不足分は将来介護費として会社に請求できる可能性があります。ご本人の意思確認が難しい場合、示談や訴訟には成年後見人の選任が必要になることが多くなります。

ご家族だけで抱え込まないでください。初回無料のご相談で、今の段階でできることを整理します。

よくある質問

Q.本人の意思確認ができない場合、示談や賠償請求の手続きはどう進めればよいですか?

A.ご本人の意思確認が難しい場合、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選任し、後見人がご本人に代わって示談交渉や訴訟を進めることになります。この手続きには時間がかかるため、早めのご相談をおすすめします。

Q.労災保険からの給付だけで、介護費用は足りますか?

A.介護(補償)給付には月額の上限があり、24時間の見守りが必要な状態では実際の負担をまかないきれないことがほとんどです。不足分は「将来介護費」として会社に損害賠償請求できる可能性があります。

ご本人が入院中でも、ご家族からのご相談を歓迎します

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