労災の挟まれ・巻き込まれ事故——内臓損傷・摘出の後遺障害等級と賠償金額
プレス機に挟まれた、フォークリフトと壁の間に挟まれた、ローラーに巻き込まれた——「挟まれ・巻き込まれ」は、製造業の労災事故の中でも最も重篤化しやすい類型です。骨折や指の切断は誰の目にも分かりますが、見落とされがちなのが内臓の損傷。脾臓や腎臓の摘出、腸の損傷、肺の障害などは外から見えないぶん、後遺障害の認定でも会社との交渉でも正当に評価されないまま終わってしまう危険があります。この記事では、内臓損傷・摘出の後遺障害等級と、賠償請求で争いになりやすいポイントを解説します。
挟まれ・巻き込まれ事故の典型例
- プレス機・成形機——金型の間に手や上半身を挟まれる。安全装置(光線式・両手押しボタン等)の不備や解除が背景にあることが多い類型です
- フォークリフト——車体と壁・棚・トラックの間に挟まれる。胸部・腹部の圧迫で内臓損傷につながりやすい事故です
- ローラー・ベルトコンベア——衣服や腕が巻き込まれ、身体ごと引き込まれる
- 建設機械・ダンプ——重機と構造物の間、荷台と車体の間に挟まれる
胸やお腹を強く圧迫された場合、その場では歩けていても、内臓の損傷が後から判明することがあります。挟まれ事故に遭ったら、外傷が軽く見えても必ず医療機関でCT等の検査を受けてください。初期の検査記録は、後の等級認定・賠償請求の土台にもなります。
内臓損傷・摘出の後遺障害等級——「胸腹部臓器の障害」
内臓——呼吸器(肺など)、循環器(心臓など)、腹部臓器(胃・小腸・大腸・肝臓・胆のう・すい臓・脾臓など)、泌尿器(腎臓・膀胱など)、生殖器——の障害は、後遺障害等級表では「胸腹部臓器の障害」として、残った機能への影響と労務への支障の程度に応じて次のように定められています。
| 等級 | 障害の程度(胸腹部臓器) |
|---|---|
| 第1級 | 機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
| 第2級 | 機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
| 第3級 | 機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
| 第5級 | 機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外に服することができないもの |
| 第7級 | 機能に障害を残し、軽易な労務以外に服することができないもの |
| 第9級 | 機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
| 第11級 | 機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
| 第13級 | 機能に障害を残すもの |
※労災保険法施行規則別表第一(障害等級表)の胸腹部臓器の項を整理したものです(各等級の号数:1級4号・2級2号の3・3級4号・5級1号の3・7級5号・9級7号の3・11級9号・13級3号の3)。このほか生殖器の障害について、両側のこう丸を失ったものは第7級の13、生殖器に著しい障害を残すものは第9級の12という定めがあります。
臓器を摘出した場合も、この枠組みの中で「残った機能への影響」により認定されます。どの状態がどの等級にあたるかは、厚生労働省の認定基準(平成18年基発第0125002号)で臓器ごとに細かく定められています。主な例を挙げると——
- 脾臓・胆のうを失った——第13級
- 一側の腎臓を失った——腎機能(GFR=糸球体濾過値)の低下の程度により、第7級・第9級・第11級・第13級
- 人工肛門を造設した——パウチ等による維持管理の困難性により、第5級または第7級
- 排尿障害が残った(神経因性膀胱など)——残尿の量などにより、第9級または第11級
- 肺など呼吸器の障害——動脈血ガス分圧・スパイロメトリー等の検査結果により、第1級〜第11級
◆ 検査数値で11級が認められた例(東京地裁平成24年12月13日判決)——工事現場の足場から滑落した型枠大工に残った排尿障害(神経因性膀胱)について、医師の意見書と残尿量の測定値に基づき「胸腹部臓器の障害」の排尿障害として第11級の9にあたると判断されました。一方で、ご本人が訴えた頻尿や生殖器の障害は、裏付けとなる検査所見がないとして認められませんでした。検査データの有無が等級を分けることを示す事例です。
◆ 他覚的な所見が前提とされた例(名古屋高裁金沢支部平成4年5月20日判決)——自動車保険の約款上の「胸腹部臓器の機能障害」は、事故によって臓器そのものに他覚的な損害・障害を残した場合に限られるとした裁判例です(保険金請求の事案)。自覚症状だけでは足りず、画像・検査による立証がいかに重要かを示しています。
押さえておきたいポイントが3つあります。第一に、第2級以上なら介護(補償)等給付の対象になること(胸腹部臓器の障害は精神・神経の障害と並んで対象類型に明記されています)。第二に、挟まれ事故では骨折や切断など複数の障害が併発しやすく、部位の異なる後遺障害が残った場合は併合によって等級が繰り上がることがあること(複数の内臓に障害が残った場合は、「胸腹部臓器の障害」として総合的に評価されます)。第三に、等級が1つ違うだけで給付・慰謝料の額は大きく変わることです。
「見た目も収入も変わらない」と争われたら——逸失利益の攻防
内部障害の賠償請求で会社側から必ずと言っていいほど出てくるのが、「外見は元どおりで、収入も減っていない。労働能力は落ちていない」という反論です。しかし、これは実態を見ない議論です。
- 臓器を失ったことによる疲れやすさ・スタミナの低下で、以前と同じ働き方ができない
- 食事制限・通院・感染への抵抗力の低下など、生活と就労の両方に続く制約がある
- 現在の収入が維持されていても、無理を重ねた本人の努力によるものであり、昇進・転職・加齢への影響は将来にわたって残る
こうした事情を、医師の意見書・検査数値・就労状況の記録で具体的に立証できるかどうかで、逸失利益の認定は大きく変わります。外から見えない障害こそ、立証の巧拙が結果を左右する領域です。
◆ 脾臓の摘出などの後遺障害が残った被害者について、裁判所は、事故前と比較して減収がないとしても逸失利益を否定するのは相当ではないとし、後遺症の程度と仕事への具体的な支障・収入への影響を総合考慮して労働能力喪失率20%を認め、約1,264万円の賠償を命じました(交通事故の事案ですが、内部障害の逸失利益の考え方として労災の賠償請求でも参考になります)。
◆ 「収入が変わっていないから損害はない」という言い分は、裁判所の考え方とは異なります。あきらめずにご相談ください。
会社の責任——安全装置は機能していましたか
挟まれ・巻き込まれ事故は、安全装置の不備・無効化、危険箇所の放置、安全教育の欠如など、会社側の安全対策の穴を背景に起きることが非常に多い類型です。プレス機の安全装置をめぐっては、会社の安全配慮義務違反を認めた裁判例が積み重なっており、労災保険ではカバーされない慰謝料や逸失利益を会社に損害賠償として請求できる可能性があります。
◆ 安全装置を取り付けなかった責任(千葉地裁松戸支部昭和60年2月20日判決)——150トン油圧プレス機で鍋の製作中、故障で上型が突然落下し、右手の指に切断創などを負った事故。裁判所は、安全装置を取り付けなかったことなどの安全保護義務違反を認め、会社に賠償を命じました。
◆ 「挟まれたら動かない」仕組みにする義務(大阪地裁昭和50年12月23日判決)——加熱式プレス機に左手を挟まれ、指の切断などに至った臨時工の事故。裁判所は、身体の一部が上型と下型の可動範囲内にある場合には作動スイッチが入らないような安全装置の設置その他必要な安全管理方法をとるべき義務を会社が怠ったと判断しました。臨時工(非正規)であっても保護されることを示した点でも意味のある裁判例です。
◆ このほか安全配慮義務の全体像と最高裁判例は「安全配慮義務違反の解説」をご覧ください。
そのためにも、治療中から事故現場・機械・安全装置の状態の写真、目撃者の連絡先、労基署の調査資料を確保しておくことが重要です。機械はすぐに改修されてしまうことがあり、時間との勝負になります。
外から見えない障害を正当に評価させるには、早い段階からの立証準備が力になります。ご本人が入院中の場合、ご家族だけでのご相談も歓迎です。初回相談は無料です。