労災で関節が曲がらない・上がらない——可動域制限の後遺障害等級と測定のポイント
骨折や脱臼、肩の腱板断裂の治療が終わったのに、肩が上がらない・肘や手首が曲がらない・膝が伸びない——関節の動く範囲(可動域)が制限された状態は、労災の後遺障害(機能障害)です。そして、この分野には知っておくべき特徴があります。等級が「4分の3」「2分の1」という数字の線引きで決まり、その数字は測定のやり方ひとつで変わり得るということです。数度の測定差で賠償額が数百万円変わることもあります。
可動域制限の後遺障害等級——腕・脚の3大関節
腕(上肢)は肩・肘・手首、脚(下肢)は股関節・膝・足首が「3大関節」です。その機能障害は次のように定められています。
| 等級 | 障害の程度(腕・脚とも同じ構成) |
|---|---|
| 1級 | 両腕(または両脚)の用を全廃したもの |
| 5級 | 1つの腕(または脚)の用を全廃したもの |
| 6級 | 3大関節のうち2つの関節の用を廃したもの |
| 8級 | 3大関節のうち1つの関節の用を廃したもの |
| 10級 | 3大関節のうち1つの関節の機能に著しい障害を残すもの |
| 12級 | 3大関節のうち1つの関節の機能に障害を残すもの |
※手の指・足の指の機能障害、首や腰(せき柱)の運動障害は、これとは別の基準で等級が定められています。詳しくは等級早見表をご覧ください。
「4分の3」「2分の1」——等級の分かれ目はこの数字です
認定基準では、ケガをしていない側(健側)の可動域と比較して、次のように区分されます。
- 12級(機能に障害)——可動域が健側の4分の3以下に制限されているもの
- 10級(機能に著しい障害)——可動域が健側の2分の1以下に制限されているもの
- 8級(関節の用を廃した)——関節が完全に強直(固まって動かない)またはこれに近い状態のもの など
イメージとしては、健側の肩が180度まで上がる方なら、ケガをした側が135度までしか上がらなければ「4分の3以下」=12級、90度までなら「2分の1以下」=10級という計算です。境界線上の数度の差が等級を分け、後で見るとおり賠償額が数百万円単位で変わります。
測定のやり方ひとつで等級が変わります
可動域は、角度計を使い、認定基準が定める測定要領に沿って測るものとされています。測定値は、原則として「他動運動」——医師が関節を動かして測った数値——で判定されます。自分で動かせる範囲(自動運動)とは数値が違うのが普通です。また、関節ごとに「主要運動」(肩なら屈曲・外転など)が決まっており、主要運動の数値が基準をわずかに上回る場合には「参考運動」の数値で認定される仕組みもあります。
つまり、測る運動の種類、他動か自動か、基本軸のとり方——測り方の条件によって結論が変わるのです。ところが実際の診察では、忙しい外来で目測に近い測定になっていたり、健側を測っていなかったり、自動値しか測っていなかったりすることが珍しくありません。
道路舗装工事中にタイヤローラーに接触して右下肢を負傷した方が、「自動運動の数値で判定すべきだ」と主張して認定等級を争った事案で、裁判所は、関節可動域は「原則として高い客観性・正確性を備えている他動運動による測定値を採用すべき」と判示しました(例外は、神経の損傷で筋肉が麻痺し、他動では動くのに自分では動かせない場合など)。測定方法の違いは、このように裁判で争点になるほど等級を左右します。診断書の作成段階で正しく測っておくことが何よりの近道です。
後遺障害診断書に書かれた角度が、そのまま等級になります。数値が実態より大きく(軽く)書かれていれば、本来の等級を取り逃します。症状固定のタイミングで後遺障害診断書を作成してもらう前に、測定が正確に行われているか、健側との比較が記載されているかを確認する——ここが弁護士に早めに相談していただく最大の意味です。
「痛くて動かせない」だけでは機能障害になりません——画像の裏付け
もうひとつの重要な分かれ目が、可動域制限の「原因」が画像などで確認できるかです。認定基準では、レントゲンなどで器質的な異常(骨折の変形治癒、関節の破壊、腱の断裂など)が確認できず、単に痛みのために動かせないだけの場合は、機能障害ではなく神経症状(12級または14級の「局部の神経症状」)として扱われます。
- レントゲン・CT・MRIで、可動域制限の原因となる器質的な損傷を示せるか
- その損傷と可動域の数値がつじつまの合う関係にあるか
この2点の立証が揃ってはじめて、10級・12級などの機能障害が認定されます。MRIを撮っていない方は、症状固定前に撮影しておく価値があります。
よくある部位別のポイント
- 肩(腱板断裂・脱臼骨折)——重い物を持つ作業や転倒で多発します。腱板断裂はレントゲンに写らないためMRIが必須です。「五十肩」と片付けられて労災の後遺障害だと気付かないケースが目立ちます
- 手首(橈骨遠位端骨折など)——転倒時に手をついて骨折し、変形治癒で可動域が残らないケース。利き手なら仕事への影響も大きくなります
- 足首・膝(脱臼骨折・靱帯損傷)——立ち仕事・現場仕事への影響が直接的で、逸失利益を具体的に主張しやすい部位です
- 人工関節・人工骨頭を入れた場合——可動域の状態に応じて8級または10級の機能障害として評価されます
◆いったん14級に下げられた等級を、裁判で10級に取り戻した例——東京地裁令和5年3月17日判決(判例時報2612号82頁)
仕事中の交通事故で右肩の腱板不全断裂を負った方について、労基署はいったん併合10級と認定したのに、後から「腱板の断裂は事故によるものではない」として14級に変更する決定をしました。裁判所は、事故の状況は腱板不全断裂を生じさせ得るものだったとして変更決定を取り消しました。腱板断裂は「事故のせいか、もともとの変性か」を争われやすい典型です。受傷直後の診療記録とMRIが、この争いの勝敗を分けます。
◆清掃作業のやり方を教えなかった会社に責任——神戸地裁姫路支部令和3年11月15日判決
工場で機械の清掃業務中に右肩の腱板断裂を負った方について、裁判所は、本来の清掃方法を記載した作業要領書を示して説明すべき安全配慮義務に会社が違反したとして、12級の後遺障害を前提に賠償を命じました。一方で、自己流の方法で作業をしていたとして4割の過失相殺もされています。「教えられていなかった」ことは会社の責任の根拠になり、「自己流でやっていた」ことは減額の理由になる——日頃の作業実態の立証が双方向に効く例です(過失相殺の解説はこちら)。
賠償金額の目安——肩の10級の計算例
たとえば肩の腱板断裂で可動域が健側の2分の1以下となり10級と認定された45歳・年収500万円の方の場合——
- 労災保険から:障害補償給付(一時金・給付基礎日額の302日分)+障害特別支給金39万円
- 会社への請求:後遺障害慰謝料 約550万円(裁判基準)+逸失利益 約2,150万円(労働能力喪失率27%・67歳まで22年・ライプニッツ係数で計算)
会社への請求だけで約2,700万円になり得る水準です。同じケースが12級(喪失率14%・慰謝料約290万円)と認定された場合との差は1,000万円を優に超えます。「数度の測定差」の重みがお分かりいただけると思います(慰謝料相場の詳細はこちら)。
会社に請求できるケースと、進め方
- 安全装置の不備・無理な作業姿勢の強制・教育不足など、会社に安全配慮義務違反があれば、慰謝料・逸失利益を請求できます
- 「腕は残っているから減収はないだろう」と逸失利益を争われがちな類型です。作業内容の変更・昇進への影響・痛みをこらえた無理など、実際の支障を具体的に立証します
- 認定された等級に不服がある場合は審査請求で争えます。可動域の再測定・医師の意見書が武器になります
炭鉱の採炭現場で、コンベアの操作スイッチの安全ピンが容易に脱け落ちる構造のまま放置され、動力源も切らず監視員も置かずに内部の作業をさせたため、突然動き出したコンベアに足を挟まれて左大腿部を切断した事案(機能障害より重い欠損の事案です)。裁判所は会社の安全配慮義務違反を認め、約1億2,181万円の損害賠償債権を認めました。「安全装置はあったが、まともに機能していなかった」——これも立派な会社の責任です。作業当時の設備の状態は、できる限り具体的に記録・記憶を残してください。
可動域の測定状況と画像を拝見できれば、見込める等級と賠償額の目安をご説明します。症状固定前のご相談が最も効果的です。初回相談は無料です。