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弁護士コラム

労災で腕・足を切断した場合の後遺障害等級と賠償金額——義肢の給付まで

義足と補償のイメージ

プレス機・フォークリフト・ローラー・ベルトコンベア——機械への挟まれ・巻き込まれ事故は、腕や足(脚)の切断という取り返しのつかない結果につながります。切断(欠損障害)の後遺障害等級は1級〜7級という最も重いクラスに位置づけられ、会社に安全対策の不備があった場合の損害賠償は、数千万円から1億円規模になり得ます。等級・労災保険の給付・賠償金額の考え方を、順を追って解説します。

切断の後遺障害等級——「どこで失ったか」で決まります

等級障害の程度
1級両腕をひじ関節以上で失ったもの/両脚をひざ関節以上で失ったもの
2級両腕を手首(手関節)以上で失ったもの/両脚を足首(足関節)以上で失ったもの
4級片腕をひじ関節以上で失ったもの/片脚をひざ関節以上で失ったもの/両足をリスフラン関節(足の甲の中ほど)以上で失ったもの
5級片腕を手首以上で失ったもの/片脚を足首以上で失ったもの
7級片足をリスフラン関節以上で失ったもの

※指の切断は別の等級です(指切断の解説はこちら)。切断せずに関節が動かなくなった場合は機能障害として評価されます(可動域制限の解説はこちら)。

ポイントは、切断の位置が関節ひとつ違うだけで等級が変わることです。たとえば片脚なら、ひざ関節以上=4級、足首以上=5級、リスフラン関節以上=7級。等級が変われば、後で見るとおり年金額も賠償額も大きく変わります。手術の記録・レントゲンで切断部位を正確に確認することが出発点です。

労災保険からの給付——年金と義肢の支給

切断の等級はいずれも年金の対象(7級以上)です。主な給付は次のとおりです。

  • 障害補償年金——1級:給付基礎日額の313日分/年、2級:277日分、4級:213日分、5級:184日分、7級:131日分。生涯にわたって毎年支給されます
  • 障害特別支給金(一時金)——1級342万円、2級320万円、4級264万円、5級225万円、7級159万円。会社への損害賠償から差し引かれないお金です引かれるお金・引かれないお金
  • 義肢等補装具費の支給——義手・義足・車いすなどの購入費・修理費が労災保険の制度(社会復帰促進等事業)から支給されます。切断後の断端のケアなどのアフターケア制度もあります

※年金の前払一時金制度や、介護が必要な場合の給付など、状況に応じて使える制度があります。個別にご案内しますのでご相談ください。

会社への損害賠償——1億円規模になり得ます

会社に安全配慮義務違反(安全装置の不備・危険な作業方法の放置・教育不足など)があれば、労災保険ではカバーされない慰謝料逸失利益の不足分を会社に請求できます。切断の慰謝料の裁判基準は、1級2,800万円・2級2,370万円・4級1,670万円・5級1,400万円・7級1,000万円です(慰謝料相場の詳細)。

たとえばフォークリフト事故で片脚をひざ関節以上で失い4級と認定された35歳・年収450万円の方の場合——

  • 後遺障害慰謝料:約1,670万円(裁判基準)
  • 逸失利益:約8,400万円(労働能力喪失率92%・67歳まで32年・ライプニッツ係数で計算)

合計で約1億円という計算になります(ここから労災の障害補償年金の既受給分などが差し引かれ、過失相殺があれば減額されます。将来分の年金は事前には差し引かれません——詳しくは損益相殺の解説をご覧ください)。若い方ほど働けるはずだった期間が長く、逸失利益は大きくなります。この規模の請求を、弁護士なしで会社側の保険会社と交渉するのは現実的ではありません。

「義足で歩けるじゃないか」への反論

会社側からは、「義肢で日常生活も仕事もできているのだから、実際の減収はない」という主張がされることがあります。しかし——

  • 労働能力喪失率(4級92%など)は、義肢の使用を前提としてもなお残る深刻な制約を反映した基準です。義肢が使えることは減額の当然の理由にはなりません
  • 義肢には装着時間の限界・断端の痛みやトラブル・定期的な作り替えが伴います。「歩ける」ことと「事故前と同じように働ける」ことはまったく別です
  • 現場作業からの配置転換、昇進・転職の制約、通勤や日常動作の負担——具体的な支障を積み上げて立証します

また、義肢は数年ごとの作り替えとメンテナンスが生涯必要になります。将来必要となる複数回分の義肢の買い替え費用・修理費用も、住宅改修費などとあわせて、一括して損害賠償として請求できます

◆減収がなくても「92%」満額を認めた裁判例——東京高裁平成20年11月20日判決(自保ジャーナル1764号2頁)
左脚をひざ関節以上で失い4級となった33歳の会社員が、事務作業への配置転換後も努力して事故前と同じ収入を維持していたため、「減収がない以上、逸失利益はない」と争われた事案です。裁判所は、立ち仕事やフォークリフト作業ができなくなったこと、昇任試験を受けられないこと、いまの収入は本人の努力が背後にあることなどから、等級表どおり92%の労働能力喪失を認めました。がんばって働いていることが、賠償を減らす理由にされてはならない——という考え方です。ただし、職種などによっては等級表より低い喪失率にとどめた裁判例もあり、具体的な支障の立証が結論を分けます。
◆高機能義足の生涯分の費用を認めた裁判例

大阪高裁平成28年6月29日判決——足を切断した被害者の義足費用について、最低限の義足ではなく、コンピュータ制御の高機能義足(ハイブリッド・ニー)の購入・修理費用をもって「必要かつ相当」と認め、将来分まで賠償の対象としました。

福岡高裁平成17年8月9日判決(判例タイムズ1209号211頁)——将来の義足費用の算定で、購入額を基礎としたうえで中間利息を控除しない(将来分を目減りさせない)計算を採用しました。

いずれも交通事故の事案ですが、労災の損害賠償でも同じ枠組みで主張できます。「とりあえず動ければいい義足」ではなく、生活の質を保てる義肢を生涯使い続けるための費用を請求する——これが切断事案の賠償実務の到達点です。

会社の責任と、今すぐしていただきたいこと

  • 切断事故の多く(プレス・ローラー・コンベア・フォークリフト)は、安全装置・安全ブロックの不備、立入り時の電源遮断の不徹底、誘導員の不在など、会社の安全管理の問題を伴います(挟まれ・巻き込まれ事故の解説
  • 事故直後の機械の状態・安全装置の有無がわかる写真、労基署の調査資料、目撃者の連絡先を確保してください。時間が経つと機械が改修され、証拠が失われます
  • 治療と並行して、労災の等級認定と会社への損害賠償請求を一体の戦略として進めることが、適正な補償への最短ルートです
【切断事故で会社の責任が認められた裁判例】

◆現場責任者の事故でも会社の責任——東京地裁平成27年4月27日判決
プレス機で左手の4本の指を切断したのは、現場の安全管理を統括する立場の工場長でした。それでも裁判所は、プレス機に安全カバーと自動停止装置を取り付けていなかった会社の安全配慮義務違反を認め、過失相殺4割のうえで約1,651万円の賠償を命じました。ベテランでも、責任者でも、「自分の不注意だから」と諦める必要はありません(指切断の解説はこちら)。

◆機能しない安全装置は「ない」のと同じ——札幌地裁昭和59年6月19日判決(判例タイムズ538号223頁)
炭鉱のコンベア内部で作業中、操作スイッチの安全ピンが振動などで容易に脱け落ちる構造のまま放置され、動力も切らず監視員も置かれていなかったため、突然動き出したコンベアに足を挟まれて左大腿部を切断した事案です。裁判所は会社の安全配慮義務違反を認め、約1億2,181万円の損害賠償債権を認めました。安全装置が「一応ある」ことと「きちんと機能する」ことは別問題です。

切断という重い障害を負われた方・ご家族へ

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