雪道・凍結で転倒したら労災になる?通勤中と会社敷地内の違い
結論からお伝えします。路面の凍結や雪道で転んでケガをした場合、通勤の途中なら「通勤災害」、会社の敷地内や会社が管理する駐車場なら「業務災害」として、どちらも労災保険の対象になります。「自分の不注意で滑っただけ」と思っても、労災保険の給付は、故意や重大な過失がある場合を除き、本人の不注意を理由に減額されません。違いが出るのは、申請の手続きと、会社に責任を問えるかどうかです。冬は転倒によるケガが増える季節です。骨折などで長く休むことになる前に、どちらに当たるのかを知っておいてください。
・通勤途中の転倒は通勤災害、会社の敷地や会社管理の駐車場に入ってからの転倒は業務災害として、いずれも労災保険の対象
・積雪で遠回りした経路も「合理的な経路」と認められ、本人の不注意があっても(故意・重大な過失を除き)給付は減額されない
・会社の敷地内で除雪や凍結防止がされていなかった場合は、労災保険とは別に会社へ損害賠償を請求できる可能性がある
冬は転倒の労災が増えます
厚生労働省の集計では、令和7年に4日以上休業した労働災害の死傷者135,333人のうち、「転倒」が37,195人で最も多く、墜落・転落や腰痛を上回っています。厚生労働省と労働災害防止団体が進める「STOP!転倒災害プロジェクト」でも、積雪や凍結による転倒災害が多発する2月が重点期間とされています。名古屋近郊でも、年に数回の積雪や明け方の路面凍結で、駐車場や通路での転倒が集中して起こります。
通勤途中の転倒は「通勤災害」
自宅と勤務先との間を合理的な経路と方法で往復している途中のケガは、通勤災害として労災保険の対象になります(労災保険法7条2項)。雪道や凍結した歩道で滑って転んだ場合も同じです。
- 積雪で遠回りした場合——いつもの道が通れず、やむを得ず別の道を通った場合も、合理的な経路と認められます。通達でも、当日の交通事情により迂回してとる経路は合理的な経路に当たるとされています。
- 自転車をやめて歩いた、バスに変えた場合——通勤のために通常考えられる方法であれば、方法の変更も問題になりません。
- 寄り道の途中で転んだ場合——経路を外れて買い物や飲食をしている間とその後の移動は、原則として通勤になりません(日用品の購入など、最小限の寄り道は例外があります)。詳しくは「通勤災害になる場合・ならない場合」をご覧ください。
なお、どこから「通勤」が始まるかは、行政の取扱いが決まっています。一戸建てでは、門または外戸が住居と通勤経路の境界です。門の内側の庭・玄関先・車庫で転んだ場合は「住居内」の出来事として、通勤災害には当たりません。実際に、一戸建ての住居の玄関先で転倒した事故を通勤災害と認めなかった行政の取扱いがあります。アパート・マンションでは、自室の外戸(玄関ドア)が境界で、ドアを出た後の共用の階段や廊下で転んだ場合は通勤災害になります。境界の判断は敷地の構造によって変わることがあるので、迷う場合はご相談ください。
会社の敷地内・駐車場での転倒は「業務災害」
会社の門をくぐった後、構内の通路や会社が管理する駐車場で転んだ場合は、通勤災害ではなく業務災害として扱われるのが通常です。事業主が管理する施設の中での出来事は、始業前や終業後の移動であっても、業務に伴う災害とみられるからです。朝、出勤して駐車場に車を停め、建物に向かう途中で凍結した路面に足を取られた——このケースは業務災害です。行政の取扱いでも、退勤のタイムカードを押した後に会社の階段で足を滑らせた事故や、会社が入居するビルの玄関口での事故は、事業主の支配下で起きた災害として業務上の災害とされています。
| 通勤災害(公道など) | 業務災害(会社の敷地内など) | |
|---|---|---|
| 治療の請求書 | 様式第16号の3 | 様式第5号 |
| 休業の請求書 | 様式第16号の6 | 様式第8号 |
| 休業最初の3日間 | 補償なし | 会社が平均賃金の6割を補償(労働基準法76条) |
| 会社への損害賠償 | 原則として問えない | 除雪・凍結防止を怠っていれば問える可能性 |
※上記は労災指定病院を受診した場合の様式です(指定外の病院で費用を立て替えた場合は様式第7号・第16号の5を使います)。書き方の詳細は「労災の様式5号・7号・8号の書き方」で解説しています。どちらに当たるか迷う場合は、転んだ場所(門の内か外か、駐車場の管理者は誰か)を正確に伝えたうえで、労働基準監督署か当事務所にご相談ください。
骨折や後遺障害が残ったら
凍結路面での転倒は、手をついて手首を骨折する、尻もちをついて腰や大腿骨を骨折するなど、治療が長引くケガにつながりやすいのが特徴です。高齢の労働者では、大腿骨の骨折から歩行に支障が残ることもあります。治療を続けても関節の動きが元に戻らない場合は、可動域制限の後遺障害として等級認定を受け、障害補償給付の対象になります。等級ごとの金額は「後遺障害等級の早見表」を、治療の終わりの判断は「症状固定の解説」をご覧ください。
会社に責任を問えるケース
労災保険からは慰謝料が支払われません。会社の敷地内で転んだ場合に、会社の安全配慮義務違反があれば、慰謝料や休業損害の残りを会社に請求できます。労働安全衛生規則は、通路を安全な状態に保つこと(540条)や、作業場の床面をつまずき・すべりの危険のない状態に保つこと(544条)を事業者に義務づけており、厚生労働省の転倒災害防止の取り組みでも、冬季の対策として屋外通路や駐車場の除雪、融雪剤の散布、凍結しやすい場所の危険マップの作成、防滑靴の着用などが挙げられています。
- 何度も凍結する場所だと分かっていながら、除雪や融雪剤の散布をしていなかった
- 屋内に持ち込まれた雪や水で床が濡れたまま放置されていた
- 夜間や早朝の通路に照明がなく、凍結に気づけない状態だった
- 滑りやすい床で、滑り止めの靴や注意表示などの対策が何もなかった
こうした事情があれば、会社の責任が認められる可能性があります。一方で、公道で転んだ通勤災害では、原則として会社に責任を問うことはできません。また、本人の歩き方や履物に問題があった場合は、賠償額が過失相殺で減ることがあります。ただし、労災保険の給付そのものは、本人の不注意(重大な過失や故意を除く)があっても減額されません。
申請の進め方と、残しておきたい証拠
- 受診時に「通勤中(または仕事中)に転んだ」と伝える——健康保険で受診してしまうと、後の切り替えに手間がかかります。
- 転んだ場所と状況を記録する——場所の写真(凍結や積雪の状態が分かるもの)、日時、天候、目撃者の名前を残してください。雪は溶けてしまうので、当日のうちに撮っておくことが大切です。
- 会社に報告し、請求書を提出する——通勤災害は本人が、業務災害は会社の証明を受けて提出します。会社が「自分で転んだのだから労災ではない」と協力を渋っても、証明なしで申請できます。「労災を使わないでほしい」と言われた場合の対応も別の記事で解説しています。
まとめ
雪道や凍結した路面で転んでケガをした場合、通勤の途中なら通勤災害、会社の敷地内や会社が管理する駐車場なら業務災害として、どちらも労災保険の対象になります。故意や重大な過失がある場合を除き、自分の不注意があっても給付は減額されません。会社の敷地内で除雪や凍結防止がされていなかった場合は、労災保険とは別に、会社へ慰謝料などの損害賠償を請求できる可能性があります。
通勤災害と業務災害のどちらに当たるか、会社に責任を問えるかは、転んだ場所と状況で決まります。判断に迷う場合は、初回無料のご相談で状況をお聞かせください。
よくある質問
Q.自宅を出てすぐの道路で凍結して転びました。通勤災害になりますか?
A.自宅の門や玄関を出て公道に出た後であれば、合理的な経路での通勤中として通勤災害になるのが通常です。一戸建ての門の内側(庭・玄関先・車庫)での転倒は住居内の出来事として通勤災害には当たりませんが、アパート・マンションで自室のドアを出た後の共用階段での転倒は通勤災害になります。
Q.会社の駐車場で転びました。通勤災害と業務災害のどちらですか?
A.会社が管理する駐車場であれば、事業主の管理下にある施設内の災害として業務災害として扱われるのが通常です。会社とは関係のない近隣の月極駐車場から会社までの間であれば通勤災害です。駐車場の管理者が誰かが判断の分かれ目になります。
Q.自分の不注意で滑っただけでも労災は使えますか?
A.使えます。労災保険の給付は、本人に不注意があっても減額されません。減額されるのは、故意や重大な過失がある例外的な場合に限られます(労災保険法12条の2の2第2項)。会社への損害賠償請求では過失相殺の対象になることがありますが、労災保険の申請をためらう理由にはなりません。
通勤災害か業務災害か、会社に責任を問えるかを、転倒の場所と状況から整理してご説明します。初回相談は無料です。
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