労災で目を負傷・失明したら——後遺障害等級と賠償金額(片目失明はいくら?)
グラインダーの破片が目に入った、薬品が飛散した、溶接の光で目を痛めた——目は、作業中のほんの一瞬の出来事で、一生の障害につながりやすい部位です。そして目の後遺障害は、片目の失明で第8級(後遺障害慰謝料の裁判基準830万円)、両眼に及べば最重度の第1級まである重い類型なのに、「片目が残っているから仕事はできるでしょう」という理屈で賠償額を低く抑えられやすいという特徴があります。この記事では、目の後遺障害等級の全体像と賠償金額、会社側の反論への対処を解説します。
目のケガが起きやすい現場——事故直後の対応が等級を左右します
- グラインダー・切削・ハツリ作業——研磨片・金属片・コンクリート片の飛来。目に刺さる事故は失明に直結します
- 薬品・溶剤・セメント——飛散による角膜の化学損傷。直後に大量の水で洗い流せたかどうかが予後を分けます
- 溶接——強い光による電気性眼炎や、スパッタ(火花)の飛入
- 釘打ち機・工具の跳ね返り、粉じん作業
受傷したら、軽く見えてもその日のうちに眼科を受診し、「どこの現場で・何の作業中に・何が目に入ったか」を必ず伝えてカルテに残してください。この初診記録が、労災認定と後の賠償請求の土台になります。保護メガネを渡されていたか・着用の指導があったかも、後で重要になるポイントです(後述)。
目の後遺障害等級——視力・視野・複視・まぶたの4系統
目の後遺障害は、障害等級表の中でも特に細かく定められています。大きく分けると①視力の障害、②視野の障害、③眼球の調節機能・運動障害(複視を含む)、④まぶたの障害の4系統です。
| 等級 | 障害の程度(主なもの) |
|---|---|
| 第1級 | 両眼が失明したもの |
| 第2級 | 1眼が失明し他眼の視力が0.02以下/両眼の視力が0.02以下 |
| 第3級 | 1眼が失明し他眼の視力が0.06以下 |
| 第4〜7級 | 両眼の視力低下、または1眼失明+他眼の視力低下(程度に応じて) |
| 第8級 | 1眼が失明、または1眼の視力が0.02以下になったもの |
| 第9級 | 両眼の視力が0.6以下/1眼の視力が0.06以下/両眼の半盲症・視野狭さく・視野変状/両眼のまぶたの著しい欠損 |
| 第10級 | 1眼の視力が0.1以下/正面視で複視(物が二重に見える)を残すもの |
| 第11級 | 両眼の眼球の著しい調節機能障害・運動障害/両眼のまぶたの著しい運動障害/1眼のまぶたの著しい欠損 |
| 第12級 | 1眼の眼球の著しい調節機能障害・運動障害/1眼のまぶたの著しい運動障害 |
| 第13級 | 1眼の視力が0.6以下/1眼の半盲症・視野狭さく・視野変状/正面視以外で複視/両眼のまぶたの一部欠損・まつげはげ |
| 第14級 | 1眼のまぶたの一部欠損・まつげはげ |
※労災保険法施行規則別表第一(障害等級表)の眼の項を整理したものです。視力は万国式試視力表により、メガネ・コンタクトによる矯正視力で測定するのが原則です(裸眼視力ではありません)。等級ごとの給付・慰謝料の一覧は「後遺障害等級1級〜14級の補償金額一覧」をご覧ください。
片目失明の賠償金額——「8級」はいくらになる?
片目を失明した場合(第8級1号)、労災保険からは障害補償一時金などが支給されますが、労災保険には慰謝料が含まれません。会社に安全配慮義務違反があれば、後遺障害慰謝料(裁判基準830万円)と逸失利益を会社に請求できます。
逸失利益:450万円 × 45% × 約18.3(67歳までの27年に対応する係数)≒ 約3,700万円
※これに後遺障害慰謝料830万円などが加わります。
※2020年4月以降に発生した事故に適用される法定利率年3%(新ライプニッツ係数)に基づく計算です。実際の請求では労災保険給付との調整計算を行います(損益相殺の解説)。
両眼に障害が及ぶ場合(1〜3級など)は、逸失利益・慰謝料とも桁が変わり、程度によっては介護(補償)等給付や将来介護費の問題にもなります。ご家族だけでのご相談で構いませんので、早めに全体像を確認してください。
「片目が残っているから働ける」と言われたら
片眼失明・視力低下の賠償交渉で必ずと言っていいほど出てくるのが、「もう片方の目が見えるのだから、仕事への影響は小さい」という会社側の反論です。しかし、実際には次のような支障が生涯続きます。
- 遠近感・立体感の喪失——ものをつかむ・機械を操作する・車を運転するといった動作の精度が落ち、従来の仕事を同じようにはこなせません
- 視野が欠ける——失明した側からの人・フォークリフト・工具に気づけず、現場作業そのものが危険になります。職種転換を余儀なくされる方も少なくありません
- 残った目への負担と不安——片目に頼る生活による疲労、そして「残りの目に何かあったら」という心理的負担
こうした具体的な支障を、職務内容と結びつけて丁寧に立証できるかどうかで、逸失利益の認定は大きく変わります。指の切断や内部障害と同じく、「見た目や収入だけでは分からない障害」こそ立証が結果を左右する領域です。
◆ 立証を怠ると否定され得ます(最高裁昭和56年12月22日判決)——後遺症の程度が比較的軽微で、従事する職業の性質からみて現在も将来も収入の減少が認められないときは、特段の事情がない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害は認められない——とした判例です(交通事故の事案)。裏を返せば、具体的な支障の立証こそが勝敗を分けるということです。
◆ 喪失率表は「上限」ではありません(最高裁昭和48年11月16日判決)——職業と傷害の具体的な状況により、労働能力喪失率表に基づく率以上の収入減少が生じる場合には、その減少率に応じた賠償を請求できるとし、喪失率90%の認定を是認しました(交通事故の事案)。表の数字は出発点にすぎません。
◆ 等級表にない障害でも認められた例(大阪地裁平成18年6月13日判決)——深視力(立体視能力)の喪失は後遺障害等級表に該当する類型がなく等級認定されませんでしたが、裁判所は、消防士の職務(片足で静止できない・大型免許の取消しなど)への多大な影響を考慮し、労働能力喪失率15%と慰謝料300万円を認めました。「等級がつかなかったから終わり」ではありません。
◆ 複視で20%を認めた例(名古屋地裁平成19年9月21日判決)——複視(14級相当)を含む併合12級の会社員について、パソコン操作・運転への支障や給与が半額程度になっている状況を考慮し、11級相当の20%の労働能力喪失と慰謝料420万円を認めました。
◆ 看護師の複視で40%を認めた例(東京地裁平成18年12月25日判決)——複視(10級)により実際に退職を余儀なくされた看護師について、職種を考慮して喪失率表以上の40%の労働能力喪失と慰謝料800万円を認めました。
会社の責任——保護メガネは渡されていましたか
飛来物・薬品飛散・有害光線のある作業では、保護メガネ等の保護具を備え付け・支給し、着用の指導・徹底をすることが会社の法律上の義務です(有害な光線にさらされる業務や粉じんを発散する場所での業務、眼に障害を与える物を取り扱う業務について、労働安全衛生規則593条・594条が保護眼鏡等の備え付けを義務付けています)。保護具が備え付けられていなかった、形だけ置いてあって着用の指導・確認がなかった、作業手順や遮蔽の不備があった——こうした事情があれば、会社の安全配慮義務違反として損害賠償請求を検討できます。
※逆に、会社から保護メガネの使用を命じられていたのに着用していなかった場合には、労働者側にも使用義務があるため(同規則597条)、過失相殺(賠償額の減額)を主張されることがあります。ただし、それで会社の責任がなくなるわけではありませんので、諦める前にご相談ください。
また、認定された等級に納得できない場合(視野障害や複視が評価されていない等)は、審査請求で争う道もあります。眼科の検査データ(視力・視野検査・複視の検査)が武器になりますので、検査記録は必ず保管してください。
「片目だから」と低く見積もられた提示額を、裁判基準で検算します。治療中・入院中の方はご家族からのご相談でも結構です。初回相談は無料です。