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弁護士コラム

高所からの墜落は労災?2m以上の墜落防止義務と会社の責任

高所作業の墜落防止措置(作業床・手すり・墜落制止用器具)のイメージ

結論からお伝えします。足場や屋根、脚立、トラックの荷台など高いところから落ちてケガをした場合、仕事中の事故であれば原則として労災保険の業務災害として、治療費・休業補償・後遺障害の給付を受けられます(高さは問いません)。それとは別に、会社には高さ2m以上の場所で作業させるときに、作業床・手すりの設置や墜落制止用器具(旧「安全帯」)の使用などの墜落防止措置をとる法律上の義務があります(労働安全衛生法21条2項・労働安全衛生規則518条〜521条)。この義務が守られていなかった事故では、会社に安全配慮義務違反があるとして、労災保険からは出ない慰謝料や逸失利益を会社に請求できる可能性が高くなります。「自分が安全帯を付けなかったから」と諦める前に、会社側の対策がどうだったかを確認してください。この記事では、墜落事故の現状、2m以上の高所作業で会社に義務づけられている対策、違反した会社の責任、本人の不注意との関係、受けられる補償を解説します。

この記事の要点

・墜落・転落は労災死亡事故で最も多い事故の型(2025年は186人)。仕事中の墜落は高さを問わず原則として業務災害
・高さ2m以上の作業では、作業床・囲いや手すりの設置が原則で、難しいときは防網や墜落制止用器具の使用が義務。違反には刑罰もある
・墜落防止措置を怠った会社には安全配慮義務違反として慰謝料・逸失利益を請求できる。本人が器具を使わなかった場合も、会社の指示・設備・教育の有無で結論は変わる

墜落・転落は、労災死亡事故で最も多い事故です

厚生労働省「令和7年 労働災害発生状況」(2026年5月公表の確定値)によると、2025年の労働災害による死亡者数は700人で過去最少となりましたが、事故の型別で最も多いのは「墜落・転落」の186人で、交通事故(126人)やはさまれ・巻き込まれ(117人)を上回っています。業種別では建設業の214人が最多です。死亡に至らなくても、休業4日以上の墜落・転落事故は年間20,864人にのぼり、脊髄損傷や高次脳機能障害など重い後遺障害が残りやすいのが特徴です。

建設現場の足場や屋根だけでなく、工場の設備の上、倉庫の高い棚、トラックの荷台、店舗の脚立作業など、高所作業はさまざまな職場にあります。どの場面でも、仕事中の墜落事故は高さにかかわらず原則として業務災害です。労災保険の給付に高さの条件はありません。

高さ2m以上の作業で会社に義務づけられている墜落防止措置

労働安全衛生法は、事業者に「労働者が墜落するおそれのある場所」の危険を防止するために必要な措置をとることを義務づけ(21条2項)、その具体的な内容を労働安全衛生規則が定めています。基準となる高さは2mです。

場面会社がとるべき措置根拠
高さ2m以上の場所で作業する足場を組むなどして作業床を設ける。作業床を設けるのが難しいときは、防網(安全ネット)を張る、墜落制止用器具を使用させるなどの措置をとる安衛則518条
作業床の端・開口部など(2m以上)囲い・手すり・覆いを設ける。著しく困難なときや作業上一時的に外すときは、防網や墜落制止用器具で代替する安衛則519条
墜落制止用器具を使わせるとき器具を安全に取り付けるための設備(親綱・フックの掛け場所など)を設け、器具と取付設備の異常を随時点検する安衛則521条
足場の上(2m以上)作業床は幅40cm以上、床材のすき間は3cm以下などの基準を満たす安衛則563条
高さ・深さ1.5mを超える場所に上り下りする安全に昇降するための設備(はしご・階段など)を設ける安衛則526条
はしご・脚立を使う移動はしごは幅30cm以上で滑り止めがあるもの、脚立は脚の角度が75度以下で開き止めの金具があるものに限る安衛則527条・528条

※労働者の側にも、会社から墜落制止用器具の使用を命じられたときはこれを使う義務があります(安衛則520条)。ただし、会社が器具を支給せず、取付設備も用意せず、使用を指示していなかったのであれば、この義務は問題になりません。

「安全帯」から「墜落制止用器具」へ——フルハーネス型が原則です

2019年2月1日から、法令上の名称が「安全帯」から「墜落制止用器具」に変わり、フルハーネス型(肩・腰・腿で身体を支えるタイプ)を原則とすることになりました。従来の胴ベルト型は、墜落時に身体が地面に届くおそれがある低い場所に限って認められ、厚生労働省のガイドラインでは高さ6.75mを超える場所ではフルハーネス型を使わなければならないとされています。旧規格の「安全帯」を使える経過措置は2022年1月1日に終了しており、現在は新規格の墜落制止用器具でなければ使えません。また、2m以上の高さで作業床を設けるのが難しい場所でフルハーネス型を使って作業させるには、会社はその労働者に特別教育を受けさせなければなりません(労働安全衛生規則36条41号)。

事故後に会社の責任を考えるうえでは、「器具を支給していたか」「フルハーネス型だったか」「フックを掛ける設備があったか」「特別教育を受けさせていたか」が、具体的な確認ポイントになります。

墜落防止措置を怠った会社の責任——刑罰と損害賠償

墜落防止措置の義務(労働安全衛生法21条)に違反した場合、現場の責任者など違反行為をした人には6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が(同法119条1号)、法人である会社にも両罰規定により50万円以下の罰金が科されます(同法122条)。労働基準監督署が事故後に現場を調査し、是正勧告や送検に至ることもあります。これは国と会社の間の問題ですが、被災した方にとっても、法令違反の有無は会社への損害賠償請求の大きな手がかりになります。

労災保険からは慰謝料が支払われません。会社に請求するには、会社が「事故が起きないように配慮する義務」(安全配慮義務・労働契約法5条)に違反していたことが必要ですが、裁判例では、労働安全衛生法令の基準は安全配慮義務の内容を定める基準になると考えられています。2m以上の作業で作業床も手すりもなく、墜落制止用器具の支給や使用の指示もなかったというような事故では、安全配慮義務違反が認められやすいといえます(判断の仕組みは「安全配慮義務違反とは?会社に損害賠償請求できる事例と要件」で解説しています)。

建設現場では、直接の雇い主である下請会社だけでなく、現場全体を管理する元請会社にも責任が及ぶことがあります。労働安全衛生法は元請(元方事業者)に、下請やその作業者が法令に違反しないよう指導し、違反があれば是正を指示する義務や、現場の巡視・連絡調整などの義務を課しており(29条・30条)、最高裁も、元請の設備を使い事実上元請の指揮監督を受けて働いていた下請労働者に対して元請が信義則上の安全配慮義務を負うと判断しています(最高裁平成3年4月11日判決)。一人親方の方も、特別加入の有無にかかわらず、元請への請求を検討できる場合があります。

「安全帯を付けていなかった自分も悪い」と言われたら

墜落事故では、会社側から「本人が墜落制止用器具を使っていなかった」「手すりを外したのは本人だ」という反論がよく出ます。たしかに、労働者側の不注意は過失相殺として賠償額を減らす事情にはなります。しかし、会社の責任そのものが消えるわけではありません。次の点を確認してください。

  • 器具を使える状態だったか——会社が墜落制止用器具を支給し、フックを掛ける親綱や設備を用意していたか。設備がなければ「使わなかった」とは言えません。
  • 使用を指示・徹底していたか——朝礼や作業手順書で使用を指示し、使っていない作業者に注意していたか。黙認が常態化していれば、会社の管理の問題です。
  • そもそも作業床・手すりで防げたか——法律の原則は作業床と手すりの設置で、墜落制止用器具は「それが難しいとき」の代わりの手段です。手すりを付けられたのに付けていなければ、器具の問題以前に会社の義務違反があります。
  • 教育を受けていたか——雇入れ時・作業内容変更時の安全衛生教育や、フルハーネス型の特別教育を受けていたか。

※労災保険の給付は、本人に不注意があっても原則として減額されません(故意や重大な過失がある場合に一部制限されることがあります)。過失相殺が問題になるのは、会社への損害賠償請求の場面だけです。

【裁判例】墜落制止用器具(安全帯)を付けていなかった事故でも、会社の責任が認められた例
◆ 元請のプラントで足場の道板が折れ、安全帯を付けずに墜落した事案(福岡地裁平成26年12月25日判決)——下請会社から派遣され元請の工場で働いていた労働者が、腐った木製の道板が折れて約3.3mの高さから墜落し、骨盤骨折などの重傷を負いました。裁判所は、出退勤の管理や作業の指示を元請が行っていたことから元請会社も安全配慮義務を負うとし、安全でない道板を撤去する義務や、道板の上で作業しないこと・安全帯を使うことを管理監督する義務を怠ったと認めました。労働者が安全帯を付けていなかった点は過失相殺の対象とされましたが、安全帯をしない方法は元請の従業員が作業手順を指示した際にとっていた方法であり、それにならったことも理解できるとして、減額は3割にとどめられました。

◆ 一人親方の大工が2階から転落した事案(大阪高裁平成20年7月30日判決)——戸建住宅の新築工事で、工務店の依頼で働いていた一人親方の大工が2階部分から転落してケガをした事案です。契約は請負の色彩が強いものでしたが、裁判所は実質的な使用従属関係があったとして、工務店は使用者と同様の安全配慮義務を負うとし、高所作業の墜落の危険を予見できたのに労働安全衛生規則518条・519条の墜落防止措置をとらなかったことを義務違反と認めました。「一人親方だから会社の責任は問えない」とは限らないことを示す例です。

◆ 作業台から転落して亡くなった派遣労働者の事案(東京地裁平成20年2月13日判決)——派遣先の工場で作業台から転落して死亡した事故で、裁判所は、転落防止の措置が施されていない作業台を使用させたこと自体が安全配慮義務違反にあたると判断しました。労働者がヘルメットを着用していなかったことを理由に、過失相殺は2割とされています。

※上の裁判例は、労働判例の解説書で確認したものです。過失相殺の割合は事案ごとの事情で決まり、同じ割合になるとは限りません。

墜落事故で受けられる補償と、進め方

  1. 労災保険の申請——治療費(療養補償給付)、休業4日目からの休業補償給付(給付基礎日額の6割+特別支給金2割)、後遺障害が残れば障害補償給付、亡くなられた場合は遺族補償給付。申請は本人・遺族ができ、会社が手続きをしなくても進められます(労災の様式の書き方)。
  2. 証拠の確保——事故現場の写真(足場・手すり・開口部の状態、親綱の有無)、支給されていた器具、作業指示書や朝礼の記録、同僚の証言、労基署の調査結果。現場は事故後すぐに手直しされることが多いので、早いほど有利です。
  3. 会社・元請への損害賠償請求——症状固定・等級確定後に、慰謝料(相場はこちら)・逸失利益・休業損害の残りを計算して請求します。示談書にサインする前に、法令違反の有無と金額の妥当性をご確認ください。

まとめ

仕事中の墜落事故は、高さにかかわらず原則として業務災害です。会社には高さ2m以上の作業で作業床・手すりを設け、難しいときは防網や墜落制止用器具(フルハーネス型が原則)を使わせる法律上の義務があり、違反には刑罰もあります。この義務が守られていなかった事故では、会社や元請に安全配慮義務違反として慰謝料・逸失利益を請求できる可能性が高く、本人が器具を使っていなかった場合も、会社の支給・設備・指示・教育の有無で結論は変わります。

墜落事故は重い後遺障害につながりやすく、賠償額も大きくなります。会社から示談を持ちかけられる前に、初回無料のご相談で現場の状況をお聞かせください。

よくある質問

Q.2m未満の高さから落ちた場合、会社の責任は問えませんか?

A.労働安全衛生規則の作業床や手すりの義務は2m以上を基準にしていますが、安全配慮義務はそれより低い場所でもなくなりません。脚立や荷台など2m未満の場所でも、不安定な足場で作業させていた、脚立の開き止めが壊れていた、昇降設備がなかったといった事情があれば、会社の責任が認められることがあります。労災保険の給付は高さに関係なく受けられます。

Q.会社から墜落制止用器具を渡されていましたが、使わずに落ちました。請求は無理ですか?

A.無理とは限りません。器具を渡されていても、フックを掛ける設備がなかった、使用の指示や点検がされていなかった、そもそも作業床や手すりを設けるべき場所だった、という事情があれば会社の義務違反は残ります。本人の不注意は過失相殺として賠償額が減る方向に働きますが、責任の有無とは別の問題です。

Q.下請の作業員です。元請にも請求できますか?

A.できる場合があります。元請会社には、下請の作業者が法令に違反しないよう指導し、現場を巡視して連絡調整をする義務があり、最高裁も、元請の設備を使い事実上元請の指揮監督を受けていた下請労働者に対する元請の安全配慮義務を認めています。足場や親綱などの設備を元請が管理していた現場では、元請への請求を検討してください。

Q.労働基準監督署が会社を送検したと聞きました。賠償はどうなりますか?

A.送検や是正勧告は国と会社の間の手続きで、それ自体で賠償金が支払われるわけではありません。ただし、労基署が法令違反を認めた事実は、会社への損害賠償請求で安全配慮義務違反を裏づける有力な資料になります。労基署の調査資料は、都道府県労働局への保有個人情報開示請求で入手できる場合があります。

墜落事故の現場の状況を、弁護士が無料で確認します

足場・手すり・墜落制止用器具の状況をお聞かせいただければ、会社や元請への請求の見通しをご説明します。ご家族からのご相談も可能です。

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