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弁護士コラム

労災の難聴・耳鳴り——後遺障害等級と認定基準【騒音性難聴は退職後でも請求できます】

騒音と難聴のイメージ

プレス機や研磨機のそばで長年働いて耳が遠くなった。爆発音や事故で聞こえなくなった。耳鳴りが止まらない——これらは労災の後遺障害です。「年のせいでは」と言われて諦めてしまう方が多いのですが、騒音による難聴(騒音性難聴)には認定のための明確な基準があり、会社を退職した後からでも請求できるのが大きな特徴です。等級・認定基準・賠償金額まで解説します。

耳の後遺障害は3種類あります

  • 聴力の障害(難聴)——騒音職場で徐々に進む騒音性難聴のほか、爆発音などによる急性の音響性聴器障害、頭部外傷による難聴も対象です
  • 耳鳴り——難聴に伴う耳鳴りは、検査結果に応じて12級または14級として扱われます(後述)
  • 耳介(耳たぶ・耳の形)の欠損——耳介の大部分を欠損したものは12級。顔の醜状障害として上位の等級になる場合はそちらで認定されます

※めまい・平衡機能の障害が残った場合は、耳ではなく神経系統の障害として別に評価されます。あわせてご相談ください。

難聴の後遺障害等級表

聴力の等級は、労災保険の障害等級表で次のように定められています。

等級障害の程度
4級両耳の聴力を全く失ったもの
6級両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの/一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
7級両耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの/一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
9級両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの など/一耳の聴力を全く失ったもの
10級両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの/一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
11級両耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの/一耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
12級一耳の耳介(耳かく)の大部分を欠損したもの
14級一耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの

※7級以上は年金、8級以下は一時金です。等級ごとの給付日数・慰謝料相場は「障害等級の早見表」をご覧ください。

「普通の話声を解することができない」といった表現は、実際にはオージオメータによる検査値で判定されます。500Hz・1,000Hz・2,000Hz・4,000Hzの4つの周波数の聴力を測り、平均純音聴力レベル(dB)を算出する方法(六分法)と、語音明瞭度(言葉の聞き取りの検査)の組み合わせで、上の表のどれに当たるかが決まります。検査は日を変えて3回(7日程度の間隔をあけて)行い、2回目と3回目の平均で認定されます。

耳鳴りも後遺障害になります——12級・14級

難聴に伴う耳鳴りは、検査(ピッチ・マッチ検査とラウドネス・バランス検査)で耳鳴りの存在が医学的に評価できれば12級、検査で捉えきれなくても騒音へのばく露歴などから耳鳴りがあることが合理的に説明できれば14級として扱われます。「昼間は周りの音でまぎれて、夜だけ耳鳴りがする」という場合も、常時耳鳴りがあるものとして扱われます。耳鳴りを訴えるだけでなく、検査を受けて記録に残すことが等級の分かれ目です。

騒音性難聴の労災認定基準——「年のせい」への反論

厚生労働省の認定基準では、次の要件を満たす難聴が業務上の疾病(騒音性難聴)として扱われます。

  • おおむね85dB以上の騒音にさらされる業務(金属研磨・鋲打ち・圧延・プレス・建設機械など)におおむね5年以上従事した後に発症したこと
  • 鼓膜や中耳に異常がない感音難聴であること(内耳の障害)
  • 聴力の低下が高音域(3,000Hz以上)で大きいこと——初期には4,000Hz付近だけが落ち込む特徴的な形(c5dip)を示します

ここがポイントです。騒音性難聴には、加齢による難聴と区別できる特徴があるということです。「歳だから仕方ない」と片付けられそうになっても、オージオグラムの形・騒音へのばく露歴・健康診断(雇入れ時や定期)の聴力検査結果をたどれば、仕事が原因であることを裏付けられる場合があります。過去の健診結果は重要な証拠になるので、可能な限り取り寄せましょう。

退職後でも請求できます——ただし「離れてから5年」の時効があります

騒音性難聴は、騒音の職場で働き続けている間は進行し得るため、等級の認定は騒音職場を離れたとき(配置転換・退職など)に行うのが認定基準の運用です。つまり、退職してから聴力の低下に向き合う余裕ができた方でも、間に合う可能性があります。「もう会社を辞めたから」と諦める必要はありません。

ただし、無期限ではありません。障害(補償)給付を受ける権利は、行使できる時から5年で時効により消滅します(労災保険法42条)。騒音性難聴では騒音職場を離れた時点が症状固定と扱われるため、離職・配置転換から5年以内に請求する必要があります。「退職後何年経っていても大丈夫」ではない点にご注意ください(労災の時効の詳細はこちら)。

◆時効の壁で敗訴した実例——浦和地裁平成4年1月24日判決(判例タイムズ789号160頁)
長年坑夫として騒音職場で働き、7級相当の重い両側感音性難聴が残った方が、離職から5年を過ぎて障害補償給付を申請した事案です。裁判所は「騒音性難聴の症状固定時期は、騒音職場離脱時である」と判断し、時効消滅を理由とする不支給処分を適法としました。障害の重さは十分だったのに、時期だけを理由に補償を受けられなかったのです。「もっと早く相談すればよかった」とならないよう、耳の聞こえが気になった時点でご相談ください。

賠償金額の目安——9級の計算例

労災保険の給付に加えて、会社に安全対策の不備があった場合は損害賠償(慰謝料・逸失利益)を請求できます。たとえば両耳の難聴で9級(1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度)に認定された50歳・年収450万円の方の場合——

  • 労災保険から:障害補償給付(一時金・給付基礎日額の391日分)+障害特別支給金50万円
  • 会社への請求:後遺障害慰謝料 約690万円(裁判基準)+逸失利益 約2,070万円(労働能力喪失率35%・67歳まで17年・ライプニッツ係数で計算)

合計すると会社への請求だけで約2,700万円台になり得る水準です。「耳が遠くなっただけ」と我慢するには、あまりに大きな差です。なお、労災保険からは慰謝料は支払われないため、慰謝料は会社に請求するほかありません(労災の慰謝料相場はこちら)。

※労災保険から受け取った障害補償給付(一時金)は、会社に請求する損害賠償額(逸失利益)から差し引かれます(損益相殺)。二重取りはできませんが、障害特別支給金50万円は差し引かれません。引かれるお金・引かれないお金の詳細はこちら

会社の責任——騒音対策は法令上の義務です

著しい騒音を発する屋内作業場では6か月以内ごとの騒音測定と記録の保存(労働安全衛生規則590条)、強烈な騒音を発する場所では耳栓などの保護具の備え付け(同595条)が義務付けられています。騒音の測定をしていない、耳栓・イヤーマフを配っていない、着用の指導をしていない——こうした対策を怠っていた場合、会社の安全配慮義務違反(労働契約法5条)を問える可能性があります。

逆に、会社から保護具の使用を命じられていたのに着用していなかった事情があると、過失相殺を主張されることがあります。ただしそれで会社の責任がなくなるわけではありません。当時の現場の騒音の状況・保護具の支給の有無を、できるだけ具体的に思い出してメモしておいてください。

◆下請の作業員でも、現場を管理する元請に請求できます——最高裁平成3年4月11日判決(三菱重工神戸造船所事件)
この判例は、まさに造船所の騒音で騒音性難聴になった下請企業の作業員(社外工)たちが、雇い主ではない元請企業に損害賠償を求めた事案です。最高裁は、元請の設備・工具を使い、事実上元請の指揮監督を受け、作業内容も元請の従業員とほとんど同じだったという関係のもとでは、元請企業は信義則上、下請の労働者に対しても安全配慮義務を負うと判断しました。勤め先が小さな会社でも、すでに廃業していても、騒音の現場を管理していた元請に請求できる可能性があります(一人親方・下請の方の解説はこちら)。

手続きの流れと弁護士に依頼する意味

  • 耳鼻科での検査(純音聴力検査・語音明瞭度検査・耳鳴りの検査)と、労災申請——騒音性難聴は治療で治らないとされているため、療養ではなく障害(補償)給付の請求が中心になります
  • 検査手順(3回測定など)が認定基準どおりに行われているかの確認——手順の不備で実際より軽い等級になることを防ぎます
  • 認定結果に不服があれば審査請求
  • 並行して、会社への損害賠償請求の検討——騒音測定記録(3年保存義務)の開示を求めるなど、証拠の確保は早いほど有利です
難聴・耳鳴りでお悩みの方、ご家族の耳が遠くなったと感じる方へ

騒音職場の経歴と検査結果をお聞かせいただければ、認定の見込みと会社への請求の可能性をご説明します。退職後の方のご相談も歓迎です。初回相談は無料です。

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